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【第4回】 香川芙美歌

 ※


 七月の上旬。山王原さんのうはら高校では一学期の期末試験が行われる。それが終わり、夏休み迄の間は「特別授業期間」と称する大学受験に特化した、通常とは異なる授業が実施された。進学校である、この高校の全生徒が、その対象者だ。

 この期間中、俺には気になる事があった。授業を受ける倉見の顔色が優れないのだ。

 倉見に声を掛ける、もう一人の生徒……、香川芙美歌かがわ・ふみかも、それに気付いていた。昼休みに自分の机へ〈っ伏している〉倉見に視線を向けながら、香川が俺の席へ来て、言葉を発する。

「最近、智香の様子、変じゃない?」

「俺も気になっていたんだ」と言いつつ、一瞬、倉見が座る席に視線を向けた後、香川の顔を見ながら、続きを話す。

「一度、倉見さんに、『調子が悪そうだが?』と、声を掛けてみたのだが、『寝不足』としか答えてくれなかった。期末試験の結果は悪くないから、成績が原因ではないと考えているのだが……」

 ちなみに、山王原高校では定期試験の際、各科目共、上位十名の成績優秀者の氏名が校内掲示板に、その点数と一緒に発表される。倉見は、これの〈常連〉でもあった。今回の期末試験もそうである。

 ここで香川が口を開いた。

「特別授業を智香は、しっかりと受けているのよ。しかも、真剣に……。私の場所から彼女の席は、よく見えるから、それは確か。だだ、休み時間になると、ああやって、机に伏してしまうの……。何か無理をしていなければ、いいけど……」

 倉見と香川は幼馴染みである……、いや、ある意味、「腐れ縁」と言った方が正確だろう。その為、香川は倉見の〈ちょっとした変化〉も見逃さず、それが、(自分の手に負えない!)と判断すると、俺の所へ来て報告をした上で相談を持ち掛けるのだ。

 倉見の母親と香川の父親もまた、幼馴染みである。高校は違ったが、幼稚園から中学校まで同じ〈学び舎〉で過ごしていた。つまり、倉見と香川は親子二代に渡る〈幼馴染み〉なのだ。

 その一方、香川自身は家庭の事情があり、中学は倉見と別の学校に通っている。その様な事情があり、例の「イジメ問題」に関しては、「直接的には知らない」と断言した。

 香川の言葉が続いている。

「私、智香の〈能力〉に関して興味は、あるんだけど、はっきり言っちゃえば、『別次元の話』なんだよね。全く理解出来ない。もし、その能力が関係する処で智香が悩んだり、困ったりしていたら、私は手が出せないから、余計に心配なんだ。そんな時、力になれるのは入谷君だけだろうし……」

(俺にも無理!)と、心の中で呟きつつ、香川の心配も理解出来た。

 何故なら、倉見自身、自らが持つ能力を正確に理解していないからだ。その証拠が彼女の、「正直に言うと、私も、よく解ってないの!」という発言である。

(自分でも理解していない事象で悩んでいるとしたら、これは厄介だぞ。出口が見えない……、いや、その出口が、あるか、どうかも判らない迷路の中を彷徨さまよう様なものだから……)

 香川は俺の顔を凝視していた。その瞳からは、(何かあった時は対処してね!)というメッセージを発している気がしてならない。

 その時であった。俺は自分の方へ向けられた鋭い目線を感じる。しかも、複数の……。それは男子生徒のものであった。その中には明らかな〈嫉妬〉の感情が込められた視線も存在する。

 学校内でも「有数の美人」と、称されている香川と〈会話が出来る〉男子生徒の数は限られていた。彼女自身、男子に話し掛けられれば、気軽に応じるのだが、ある話題を話し合う「会話」というレベルになると、そのハードルが一気に上がるのだ。

 男女の生徒間でも共通の趣味等があれば、会話を成立させる「話題」は、割と簡単に見付け出せるだろう。だが、この話題がなければ「会話のチャンス」すら、訪れない場合もあるのだ。

 一方、俺と香川には「倉見」という共通の「話題」が存在する。俺自身、クラス委員長という立場がある為、それだけでも香川と話す機会が多い上に、倉見の存在によって、会話の頻度は更に増している。それがクラスの男共にとって、「おもしろくない」のも事実であった。

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