【第16回】 死直界
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空港内にある保安検査場の様な場所……、俺には、そう見えたが、ここが『死直界』の中心部だという。
その中央部には、ゲート型金属探知機の様な物が設置されている。
俺と、倉見にも見えていると思われたエスカレータは、少し特殊な構造をしていた。階段状のステップが頂上部分に近付くと、段差の間隔が狭まり、水平となる。この状態のままエスカレータのステップが「動く歩道」へと変化するのだ。つまり、斜め方向の移動から、そのまま水平方向への移動が可能なのである。
学校の教室で使われている様なイスに座った人達は、自動的に金属探知機へと向かって行く。
運ばれた状態の人が、その探知機を通る度にゲートそのものが光を放つ。
あくまでも「俺流の解釈」だが、この金属探知機の様な物は、透過性のある白いプラスチックで作られており、その中に内蔵されたライトが点灯すると、その光がプラスチックを通して見えていると推測した。まぁ、これは俺の目に「そう映っている」だけらしいが……。
ゲートが発する光は三色。「緑」、「黄色」、「赤」だ。
(信号機の様だな……)と思いつつ、その光を眺める。
点灯頻度としては「緑」が一番多い。時折、「黄色」も付くが、「赤」は一回だけだった。
ここでチクノクサの口が動く。
「仮現界から、死直界に来た人間の魂は、まず三種類に分類される。
一番多いのは、通常のコースとも言える真現界へと向かう魂だ。
君達には、どの様に見えているのか解らないが、『刳り抜かれた岩』を魂が通過した時、その岩が光を放つ。それが『緑』だったら、その魂は真現界行きが決まる。その色が『赤』だと『救痛界』という世界へと向かうのだが、この救痛界へ『落ちる』魂は稀と言えよう。それだけ特殊な意味を持っているのだが……」
(物体の形は異なるが、チクノクサ……、ここの管理人達が見えている色と、俺が見える色は一緒だな)と俺は考えていた。
彼の説明が続いている。
「さて、まずは例外の話しからしよう。儂は先程、人間の魂に関して、『原則的に永遠の命を持つ』と言ったが、『原則的に』という言葉を加えた理由として、人間の魂だけは例外が存在するからだ。端的に言えば、『消滅も有り得る』……」
「えっ!」と、倉見が声を上げた。
チクノクサは彼女の顔を見ながら、「ここから少し面倒な話になるのだが、この例外……『魂の消滅』を使って、死直界の役割を説明しよう」と告げ、言葉を紡ぎ始めた。
「まず、これだけは覚えて貰いたい。人間だけではなく、全ての魂には『重さ』がある。
そして、全ての生命に対し、正当な理由がない『不利益な行為』を行うと、魂の重さが減るのだ。
例外も存在するが、それに触れると収拾が付かなくなるから、原則論を話すと、人間が他の生命を殺し、それを食べても魂の重さは減らない。何故なら『自らの生命維持』という『正当な理由』があるからだ。だが、食料としないにも関わらず、生命を殺せば、それは『殺戮行為』と見なされ、魂が軽くなる。もちろん、これに関しても例外があるものの、話が煩雑化するだけだから、その点の言及は避けさせて貰う。
特に人間の場合、『生命維持』以外の目的で他の動物……、これは人間に対してもそうだが、『殺戮行為』を仮現界で繰り返した。
一つ加えるのなら、ここでの『正当な理由』とは、『人間が自分達に都合よく考えた理由』ではなく、『真現界に於ける常識としての理由』という意味だ。人間が、どんなに立派な理由を考えても、それが真現界の常識と合致しなければ『正当な理由』とは、ならない。
ここに死直界が出来た要因がある。つまり、『魂の重さが極端に軽くなった場合は、輪廻転生をさせる必要はない』とされ、それを見極める場所として、死直界が発生した。
そして、『輪廻転生の必要なし』と、判断されれば……、ここでは『黄色』が点灯した場合だが、その魂は有無を言わさず、消滅させられる。あれを見るがよい」
そう言って、金属探知機の様な物へ彼は視線を向けた。それに俺と倉見も倣う。