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【第1回】 祖父の死

 ※


 私立山王原さんのうはら高等学校の二年二組には〈特異な能力〉を持った女子生徒がいる。

 名前は、倉見智香くらみ・ちか

 容姿的には「余りにも」という言葉を付けたくなる程、目立った特徴がない、ごく普通の女子高生であった。

 その一方、倉見はクラス内で孤立していたのも事実である。二人の生徒を除き、普段、彼女に話し掛ける者はいない。はたから見ると「無視」というイジメの対象とも言える存在であるが、クラスメイト達にとって、その様な認識は薄い。また、倉見自身も「イジメられている」とは考えていない様だ。

 彼女にクラスメイトが近付こうとしないのは、彼女の言動が要因である。

「私には『何か』……、霊の様な意識体が憑依していて時折、話し掛けて来るんだ」や、「自分でも、よく解らないけど、〈オーラ〉の様なものは見える……、正確には感じられるよ」と真顔で話すのだった。


 ※


 その様な倉見に対して、俺は何の躊躇ためらいもなく話し掛けた生徒の一人である。

 正直に言ってしまえば、俺自身も、「倉見の言動は変だ」と感じていた。だが、その「変な言動」に対して、かなりの〈興味〉を持っていたのも事実だ。

 半面、俺はスピリチュアルな世界に関心がある訳ではない。「超能力」や「霊能力」、「心霊現象」も信じていなかった。その一方、「常識では考えられない現象」……、「超常現象」には相当の興味を持っている。

 倉見が俺に、こう話した事があった。

「人が死ぬ時って、不思議な現象が起こる場合もあるのよね。それは『魂』が関係していると思うんだ。私に憑依している意識体も、その説明をするんだけど、正直に言うと意味が解らないのよ……」

 俺は「死が関係した超常現象」をの当たりにしている。それは祖父の死だった。


 祖父が亡くなったのは今から二年前。享年七十二歳である。

 電気関連の技師であった祖父は定年退職後、高年齢者が所属する地元のシルバー人材センターで働いていた。

 ある時、祖父は仕事を終え、自宅に戻った処で倒れる。直ぐに救急車で総合病院へと搬送され、集中治療室《ICU》で治療を受けるが、三時間後に死亡した。

 ここで病院側が大騒ぎとなる。

 自覚症状がある持病はなく、歯科以外に通院していなかった祖父は、この病院で死因を探る事になったのだが、その結果、肺、食道、胃、大腸、肝臓、胆嚢、前立腺で癌が発見されたのだ。しかも、どれもが「末期癌」であった。

 医師が悲痛な声を上げたという。

「ここまで癌が進行していながら、今まで痛みを全く感じなかったのか!」

 祖父は、「最近、身体からだが妙に重いなぁ……」と、口癖の様に呟いていたが、「痛い」という言葉は一言も発していない。確かに、ここ数ヵ月で痩せはしたが、元々、体格が良かった所為せいもあり、それを〈病的〉と捉える家族もいなかった。しかも、元気にシルバー人材センターへ通い、毎晩、一合の日本酒を楽しんでいたのである。死の前日まで……。

 この事実は俺達の家族にとっても、青天の霹靂であった。

 俺の祖母は肝臓癌で亡くなっている。最終的に祖母は「治療」が目的ではなく、「痛みを和らげる」……、いわゆる「緩和ケア」を目的に入院していた。それでも祖母は、「痛い」という言葉を繰り返す。

 家族全員が「終末期の癌は相当な痛みを伴う」と認識していたにも関わらず、祖父は、「痛い」と最後まで言わなかったのだ。

「どうなっているんだ?」

 俺の家族だけではなく、総合病院の医師や看護師も、その言葉を繰り返すのみ。

 俺自身は見ていないが、死亡時に作成される「死体検案書」には死因として「癌」という単語があったと聞かされている。

 祖父の死は一部の……、医学関連学会等で相当な話題となったらしいが、俺自身、その詳細を知らない。だが、異常とも言える祖父の死には関心を寄せていた。

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