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きれいに飛んだことで数か月前にユーリーンや他の女にも平手打ちをされていた男だと気づいた。
そいつがまた性懲りもなくユーリーンに言い寄ったのだろうという認識だった。
「私だって困っている人がいれば助けたいわよ。でも、できないことだってあるわ!いい加減なこと言わないで」
「ゆ、ユーリーン、悪かった」
「悪いと思ってもいないくせに謝ってどうするのよ!どうせ、私以外にも声かけてるんでしょ!」
騒ぎを聞きつけて近くの人が集まっていた。
その中に運悪くアルベンスが一夜の宿としている女がユーリーンの最後の叫びだけ聞いてしまった。
買い物帰りだというスーザンは荷物を落として呆然とアルベンスを見た。
「ちょっと!どういうことよ!私だけだって言ってたじゃない!?」
「す、スーザン!?」
「一緒に住もうって話してたのは嘘だったのね!もう知らない!二度と近づかないで!」
完全に二股騒動になり、ユーリーンも巻き込まれた形になったが、突如現れたスーザンに相手を任せてアルベンスから離れた。
巡回をする気分でもなくなり仕切り直しのために駐屯所に戻った。
「ただいま、会いたくない人に会っちゃった」
「それは災難ね」
「しかも気分が落ち着かなくなって殴っちゃった」
「殴った?・・・・・・“鑑定”」
ユーリーンとて軍人であるから常に冷静であることを心がけている。
そんなユーリーンが殴ったとなると事態は変わる。
「なるほどね」
「フィアット?」
「アルベンスのもう一つの“スペル”の効果だね」
精神に作用する“スペル”であることは分かっているが効果は不明のままだった“スペル”だ。
「“破壊”は精神に作用して廃人にするような効果じゃなくて思考の方向性を変える効果があるんだと思う」
「思考の方向性?」
「たぶんね。詳しいことはマグドラに聞いた方が良いよ」
「はぁまた“スペル”にかかるとは不覚だわ」
「仕方ないよ。精神作用系は防ぐのが難しいから」
隊長は椅子から這って降りるとユーリーンの元まで歩いて隣に座る。
背伸びをしてユーリーンの頭を撫でた。
「よしよし」
「隊長、ありがとうございます」
「このままだと問題が起きそうだね。穏便に町から出てくれないかな?」
「ロロルという女性が無理矢理結婚させられそうだから助けて欲しいという相談を受けました」
「ロロル?珍しい名前だね」
貴族令嬢で三文字というのはファーストネームでは珍しかった。
多くの貴族を見てきたフィアットでも聞いたことがなかった。
「貴族じゃない?商会の娘とか?」
「だとしても家のことだからね」
「とにかく探してみます」
「そうだね。ヴィヴィがいないから他の任務が何か分からないし」
ヴィヴィは月に一回の軍法会議に出席している。
隊長が通常は出席するのだが、嫌がったから代理で出席していた。
もし隊長が出席していても身長のせいで不便だからヴィヴィが付き添っていただろうが。
「それにしても次から次に女の人を見つけるね」
「盛大に振られてましたけど」
「どうやってお金を手に入れているんだろうね?」
「カナリアみたいなパトロンを見つけたということですか?」
「この町に貴族はいない」
「ならどうやって?」
「それも調査かな?」
※※※
「で、調査の結果ですが、アルベンスはたくさんの女性たちの間を渡り歩いて食事はマリアという元ハーレムの女性が面倒を見ているそうです」
「ただハーレムというよりは一夜の相手という名目が強いのでカナリアのときのようなものとは質が違うようです」
「うんうん、それでって、マグドラ!?いつ帰って来たの!?」
「つい十分前ですわ」
ユーリーンの報告を聞いていた隊長は部屋にいないはずの人物の声を聞いて驚いた。
潜入捜査をしていたマグドラが帰って来たのだ。
「潜入先の全員の“スペル”の調査が終了しましたので報告書にまとめてお渡ししますわ」
「うん、ありがとう」
「それユーリーンから“破壊”という“スペル”の効果の確認がありましたけど、私も聞いたことがありませんわ」
マグドラの“スペル”は“辞典”という希少価値の高いものだ。
対象者に触れることで“スペル”の名前と効果を知ることができる。
ただし触れなければいけないのでリスクは高い。
「珍しい“スペル”なのかな?」
「そのあたりはフィアットに聞かなくてはいけませんね」
「フィアットならお使いから帰って来ると思うよ」
隊長が動物屋の小豆棒を食べたいという願いから買い出しに出ることになった。
町にアルベンスがいることからユーリーンと鉢合わせして面倒なことになると困るので必然的にフィアットになった。
ヴィヴィは軍法会議が長引いているため帰って来ていない。
「任務から帰って来ましたら噂になっている男性がいましたので聞いてみると何でもハーレムを築いていたとか」
「セルラインが壊したけどね」
「そしてユーリーンに半殺しにされたとか」
「一発殴っただけ」
「今はロロルという女性を探しているようでしたわね」
マグドラの情報収集能力は誰よりも高い。
なぜか聞き込んだ相手が重要な情報を持っていることが多かった。




