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隊長の秘密任務によって二人の距離が縮まったような縮まっていないようなことになっているころに問題は起きた。
アルベンスは日々の食事をマリアのところで済まして寝るところを色々な女のところを渡り歩くという生活を繰り返すようになった頃だった。
カナリアというパトロンを失ったという話は聞いていても近づいて来る女は一定数いる。
「ねぇアルベンス」
「どうした?スーザン」
「今夜も家に来るでしょ?」
「言葉は嬉しいけど、いつも泊めてもらったら悪いだろう」
「一緒に住んでも良いのよ?」
スーザンはアルベンスに惚れ込んで一緒に住もうと提案するがアルベンスは言葉を濁す。
今までカナリアという貴族の家に住んでいたから平民の家では狭く感じていた。
一夜の宿としてなら問題ないから渡り歩いていた。
昼間のアルベンスは宿に泊まっているカナリアを捉まえようと見張っていた。
「今夜また行くよ。俺はやらなければいけないことがあるから一緒に住むことはできない」
「何か目標を持っている人って好きよ」
「ありがとう、スーザン」
何度も宿に行って取次を頼むが毎回セルバドスが出て来てカナリアは出て来なかった。
図々しくも金の無心もしていたから心情としては最悪だった。
「カナリアに取り次いでくれ」
「・・・名前を」
「アルベンスだ」
「・・・家名を」
「ない」
「お引き取りを」
アルベンスが最初に泊まっていた宿も高級なところになるが貴族専用の宿とは格が違った。
身元が明らかな者か紹介状を持っている者しか泊まることができない。
取り次ぎも同様のことで身元が明らかでなければ門前払いだ。
「アルベンスだと言えば分かる」
「お引き取りを」
「・・・また来られたのですか」
「セルバドス!」
「何度来られても奥様はお会いになりません」
「カナリアはちょっと拗ねてるだけなんだ。会えば分かる」
「お引き取りを」
セルバドスは頭を下げて部屋に戻り、受付はアルベンスがいないように振る舞った。
不貞腐れたアルベンスは町を当てもなく歩く。
そして見慣れた姿を見つけて駆け寄った。
「ユーリーン!」
「え?アルベンス?」
「久しぶり!同じ町にいるのに全然会わないな」
「そうね」
「それでさ、相談したいことがあるんだけど」
会っていないだけでアルベンスの実情は手に取るように知っているから相談と言われると身構えてしまった。
それでも何を相談しようとしているのかは知らないといけないから近くのカフェに入った。
「それで相談って何?」
「うん、それがさ。親が決めた婚約者と無理矢理結婚させられそうになっている女がいるんだ。どうにか助けたいから力を貸してくれ」
「それは軍が干渉できる内容じゃないから無理よ」
「そこを何とか頼む」
「だいたい婚約しているなら解消の手続きも大変だから他人が首を挟める内容じゃないわ」
家同士のための婚約ならもっとややこしいことになる。
たとえ好きだからという理由だけで簡単に入れ替えることはできない。
「だけど無理矢理愛のない結婚をしても不幸になるだけだ。ユーリーン、一緒に行って説得してくれ。軍人のお前からならきっと向こうも話を聞いてくれるから」
「私は仲介屋じゃないのよ。だいたい畑違いだし」
「ユーリーン、俺が頼んでるんだ!頼む」
「その無理矢理結婚させられそうになっているのは、どこの人よ」
「ロロルっていうんだ」
「家名は?」
無理矢理結婚となると家格が問題になってくる。
上の家からの申し出の場合は、よっぽどの事情がない限りは断ることができない。
「家名が重要なのか?大切なのは結婚させられそうになっていることだろ」
「家のために必要な結婚というものもあるのよ。それに何度も言うけど軍は介入できないの」
「ユーリーンは不幸な女を助けたいと思わないのか!?」
「軍人は万能じゃないの!?仲介屋に頼みなさいよ」
「俺はユーリーンだから頼んでいるんだ!分からないのか!?」
完全に平行線を辿り、ユーリーンは話を終わらせて巡回に戻りたかった。
アルベンスは自分が頼めば誰もが言うこと聞いてくれると思い込んでいる。
「頼まれても無理なものは無理よ!」
「それでも軍人なのか?困っている民を助けてこそ軍人だろう!」
「だから軍人の仕事じゃないって言ってるでしょ!」
「そうやって役所仕事をするから民が困るんだ!いい加減、目を覚ませ!」
アルベンスは無意識に“破壊”を使ってユーリーンの軍人の仕事の固定観念を壊そうとしていた。
だが、それはユーリーンの軍人としての尊厳を酷く傷つけることになり怒りを買うだけだった。
「そう」
「分かってくれたんだね」
「分かったわ。貴方がどうしようもないくらいに分からず屋だということがね」
思い切りユーリーンはアルベンスの頬を殴った。
平手打ちという可愛らしいものではなく、握りこぶしで殴った。




