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アルベンスに偶然見られていたとも知らないセルラインとワルナーは楽しくお茶会をしていた。

 

死角になって見えなかったがベネガが、お茶やお菓子を取り分けていた。

 

「ワルナー様?お願いがありますの」

 

「私に叶えられることなら何なりと」

 

「今夜、祝勝会として飲み比べをしていただけませんこと?」

 

「望むとこだ。とっておきの酒を用意させよう」

 

「わたくしもワルナー様に飲んでいただきたいお酒を用意しますわ」

 

ベネガはひっそりと溜め息を吐いた。

 

楽しそうに笑うのはセルラインとワルナーだけだ。

 

 

※※※

 

 

祝勝会と称した飲み比べは明け方近くまで続き、上機嫌なセルラインが酔い潰れたワルナーに膝枕をして飲み続けるということになった。

 

仕方ないと付き合ったベネガは片づけをしてから眠った。

 

昼近くになって起き出したべネガはソファで眠ったままのワルナーの肩を叩いた。

 

呻き声と共に頭を押さえながら体を起こした。

 

「うぅ割れそうだ」

 

「あれだけお飲みになれば二日酔いにもなりましょう」

 

「そう言うな。水をくれ」

 

「セルラインがウワバミだとご存知ではありませんか」

 

水と二日酔いの薬を用意して向かいのソファに座る。

 

ワルナーは王族だが、差し出された水と薬を何も躊躇いなく飲み干す。

 

護衛が居れば必ず止めただろうが、独り身の旅だから止める者はいない。

 

「手厳しいな」

 

「セルラインに求婚でもなされば宜しいのに」

 

「どうしてそうなる?」

 

「好きな人からの勝負でしたからお受けになったのでございましょう」

 

ワルナーがセルラインを見つめる目には情愛が宿っていた。

 

その目に気付かないセルラインではないから気付かないふりをしているのだろう。

 

「はぁ言うなよ」

 

「さっさと告白なされば宜しいのに」

 

「何と言えば良い?好きだから結婚してくれ?遊びと思われて終わりだ」

 

客と踊り子という関係が長かったのと、出会ってから時が経ちすぎて互いに気持ちを拗らせていた。

 

セルラインも同様だった。

 

踊り子として色々な男に愛を囁いて夢を見せてきた。

 

時には女の体を利用してきた。

 

「本当に拗らせてますのね」

 

「何とでも言ってくれ。セルラインが誰のもにもなっていない。それだけで十分だ」

 

「そんなこと言っているから軍人になってしまったのですよ」

 

「フム、なら護衛として雇うか」

 

純粋に好きだからと言えば、それだけで良いのに拗らせていた。

 

こっそりと溜め息を吐いたべネガは好きにしてくれと諦めた。

 

「さて、そろそろ出発するから支払いを」

 

「支払いと言いましても、偽りの店でございましたから支払いは結構ですわ」

 

「そうか」

 

「この町を出て、どちらに行かれますの?」

 

「一度、自国に戻ることにする。甥が成人の儀を迎えるから祝わなければならない」

 

自由に旅をしているワルナーでも公務からは逃げられない。

 

「旅の無事をお祈りしておりますわ」

 

「ありがとう。それでセルラインはどうしている?」

 

「報告のために駐屯所に行きましたわ」

 

「そうか。また会おうと伝えてくれ」

 

「わたくしは伝書鳩ではございませんのよ。ご自分でお伝えくださいまし」

 

何か特別なことがなければ話をすることもない二人の間で伝言を何度も受け渡しているベネガは何度も直接話すようにと進言した。

 

それでも改善しないのは二人が拗らせていることが原因だった。

 

困ったように笑ってワルナーは着替えるために部屋を出て行った。

 

いつものように曖昧に終わり、ベネガは自分の店に戻った。

 

 

※※※

 

 

「ハーレムを壊すことに無事成功しました!」

 

「目的ってそれだっけ?」

 

「違った気がするけど、壊してしまったのなら仕方ないね」

 

思いがけずハーレムが壊れたことでアルベンスの財源を途絶えさせることができた。

 

それでもきっと“魅力(チャーム)”を使って新しい女たちを集めるだろう。

 

「ヒナゲシが潜入してたみたいだけど、美人局のセイレンの異名を持つ私には及ばなかったようね」

 

「不覚」

 

セルラインもヒナゲシの扱いは心得ている。

 

裏を返せば、潜入して私より凄かったという褒め言葉になる。

 

「このヒナゲシ、一度里に戻り修行して参ります」

 

「うん、帰って来なくて良いよ」

 

「では、さらば」

 

里に戻って面倒な性格が治らないか期待しながら見送った。

 

ヒナゲシの性格はかなり改善されたのだが、それでも他の隊では扱いづらいと言われている。

 

「隊長、これで任務終わりましたよね?」

 

「そうだね、終わったね」

 

「ご褒美ください」

 

「ん?」

 

通常運転でアイスクリームを食べながら話半分で聞き流していた隊長はスプーンを咥えて固まった。

 

特にご褒美というものを考えていなかったからだ。

 

「いいよ」

 

「今夜こそ一緒に寝てくれるんですね!?」

 

「それは好きな人としないとダメだよ」

 

「あいかわらず硬派・・・でも素敵」

 

机の引き出しから可愛い包み紙の飴を取り出した隊長はセルラインに差し出した。

 

子どものお使いかと思うがセルラインには十分だった。

 

「それは!隊長が一週間に一回しか食べない幻の飴じゃないですか!?」

 

「頑張ったからご褒美にあげる」

 

「はぅ、大事にしますね」

 

「大事にしないで、大事に食べなさいよ」

 

飴ひとつでここまで喜ぶのはセルラインくらいのものだろう。


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