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ついにセイレンが踊るとなり休憩を挟むことになった。

 

手持ちの金貨が底を尽きそうになっているアルベンスは今のうちにカナリアに届けさせようと考えていた。

 

「ベネガ」

 

「何でございましょう」

 

「カナリアに使いをやって手持ちを持ってくるように言ってくれ」

 

「そのようなことをせずとも、こちらをお使いくださいまし。宴が終わりましたらお支払いくださればよろしいのですよ」

 

見せ金として金貨二百枚をベネガは用意した。

 

使えば使うだけ請求が来るが手持ちが尽きたなどという恥ずかしいことは回避できる。

 

「悪いな」

 

「いいえ、アルベンス様だからですよ」

 

「支払いは色を付けさせてもらうから安心しろ」

 

「どうぞよしなに」

 

アルベンスが支払った金貨も他の客が支払った金貨もすべて持ち主のもとへ返される。

 

豪遊した分の金貨はカナリアのもとへ時期を見て返す予定にはなっていた。

 

「アルベンス殿、お待ちしていましたぞ」

 

「セイレンの舞が始まりますな」

 

「待たせたな」

 

揃ったところで音楽が再開し、セイレンが静かに踊る。

 

妖艶でそれでいて清廉された舞は見る者を虜にし、捉えて離さないだけの魅力があった。

 

舞が終わるまで音を立てることすら憚られて息をするのも忘れた。

 

「・・・これにて終わりにしとうございます」

 

扇を閉じて礼をしたセルラインは意味ありげにアルベンスに笑いかけた。

 

それは愛おしい男へ向けるようで、誘うような表現しがたい笑みだった。

 

「セイレン、見事であった」

 

「ワルナー様、このたびは身請けしていただきありがとうございます」

 

「うむ、そうだな。最後の舞ということであったからな。金貨五十枚といこう」

 

これで一番はワルナーになったが、黙っていないのがアルベンスだ。

 

だがそれもワルナーが挑発し、アルベンスがベネガから受け取った金貨で支払える瀬戸際の額に調整していた。

 

「俺も金貨五十枚だそう。だが足りないな。金貨五十枚追加だ」

 

「ほう。確かにセイレンの最後の夜となれば、それくらいの価値はありますな」

 

「だが、我らにはちと支払えぬ」

 

「ここは身を引くのが正解と言えますぞ」

 

完全にセイレンだけを見ているアルベンスには忠告も耳に入らずに金貨を積み上げた。

 

これで一番はアルベンスになったが、ワルナーは簡単に引き下がらない。

 

「どれ、金貨五十枚」

 

「なら同じく」

 

「金貨五十枚を追加しよう。これ以上は不毛だ」

 

「俺も金貨五十枚」

 

「見たところ、有り金全部というところか。金貨百枚で終わろう。手持ちの金貨が無くなったのでね。次はそうだな。この金の腕輪といこうか」

 

ベネガから受け取った金貨も無くなり、金の装飾品となると簡単には用意できない。

 

完全に負けたことを知ったアルベンスは黙って項垂れた。

 

「なかなかに楽しい宴となった。感謝する。さてセイレン、行こうか」

 

「はい」

 

「それでは我らも暇をしよう」

 

部屋にはアルベンスとベネガだけが残った。

 

舞を楽しむものだから宴が終わると客も店に泊まることなく帰るのが決まり事だった。

 

「くそーーー、なぜ俺があんな男に負けなければいけない」

 

苛立ちを抱えたままアルベンスはカナリアのいる貸別荘に帰った。

 

渡された金貨百枚を使い切り、馬車を使うことができないから歩いて帰った。

 

そのまま店に泊まろうとしたがベネガに泊まることができない決まりだと言われて仕方なく出た。

 

「カナリア」

 

別荘の中は薄暗く、人気もほとんどなかった。

 

今まではアルベンスが戻ると、どんな時間でも誰かが出迎えて明かりが灯っていた。

 

「こんな夜更けにお戻りとはいかがなものでございますか?」

 

「おい、小言を聞きたい気分じゃない。さっさといつものように金を用意しろ」

 

「今朝、用意しましたでしょう。金貨百枚」

 

「たった百枚で何ができる!いいから言われた通りにしろ」

 

カナリアはアルベンスと話すときには外していたヴェールを下している。

 

そしてアルベンスに話しかける声には甘さが無くなっていた。

 

「今までは不遇な女性を助けるためだと言われ用意して参りましたが、さすがにこれ以上は見過ごせませんわ」

 

「何を言っている?」

 

「踊り子のいる店で遊ぶことが女性を助けるのですか?わたくしには理解できませんわ。そして一晩で金貨三百枚もの散財は、わたくしの手に負えるものではございません」

 

「金に物言わせて女を不当に扱っている奴に勝つには金が必要だ!金貨三百枚くらい端金だろう!カナリア」

 

肩を掴みアルベンスはカナリアにすがりついた。

 

アルベンスにはヴェールで隠されていて気づかれていないがカナリアは冷めた瞳を宿していた。

 

「ならば端金くらいお稼ぎなさいませ。わたくしは領地に戻ります。この別荘も今月末には引き払うよう手筈は済んでおります」

 

「カナリア!他の女たちはどうした!?」

 

「皆にも伝えております。その後のことは存じ上げませんよ。貴方の女たちなのですから、わたくしの知るところではございませんよ」

 

カナリアがアルベンスの元を離れて領地に戻ると伝えられた女たちは、ほとんどが元いた街に戻ることを選んだ。

 

アルベンスの“魅力(チャーム)”の効果が薄れ始めていた時期だったから大きな問題も起こらずに受け入れられた。


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