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すっかり夜が更けて宴会の準備が整ったころにベネガはソファで眠り込んでいるアルベンスを起こしにかかった。

 

泊まっているときに気づいたがアルベンスは寝起きが悪い。

 

覚醒するのに時間がかかるのはもちろんだが、受け答えができるようになるまでにも時間がかかる。

 

「起きておくんなし、始まりますよ」

 

「あぁ」

 

「先に行っていますからね」

 

アルベンスを迎え討つために踊り子は気合を入れて化粧をしていたし、客としてはワルナーだけではなく、他の客までサクラとして混ざっていた。

 

引退をしたセルラインの踊りを見ることができるとあって駆け付けた。

 

「・・・お待たせしました」

 

「待つのも男の甲斐性というもの。気にせんでいい、ベネガ」

 

「そうは参りませんよ。こちらからお願いしていますのに」

 

「タダで酒と踊りが楽しめるとあれば待つくらい苦でもあるまい」

 

ワルナーだけでなく、他の客も店での遊び方を知り尽くしている。

 

さらに顔も広いから多くの踊り子が大切にしている客たちばかりだった。

 

「うん?他にも客がいるのか」

 

「これでお揃いですわね。宴を始めさせていただきます。お楽しみください」

 

ベネガの口上により少女たちが酌を始めた。

 

いずれ踊り子として舞台に立つ見習いだ。

 

「おい、ベネガ。セイレンはどうした?」

 

「舞の締めに出て参ります。それまで楽しみください」

 

宴が始まれば無駄口を叩かずに食事と酒と舞を楽しむのが粋というものだった。

 

普通なら追い出されてもおかしくない行動だが今回は誰も咎めない。

 

主役はアルベンスだからだ。

 

「ほう、なかなかな踊りだな。金一枚といこう」

 

「なら私は金一枚と大銀一枚」

 

「みなさま楽しんでいらっしゃるようですわね」

 

「美しい舞には対価というものが必要ですぞ」

 

「どれ、私も金一枚出させてもらおう」

 

お膳の端に金貨を置いて舞が進むにつれて積み重ねていくのが流儀だ。

 

それを知らずに投げるというようなことはしてはいけない。

 

「初めてのお顔ですな。どれ、私の酌を受けてくださらんか?」

 

「もらおう。俺はアルベンス」

 

「私は、ガングス。運が良いですな。セイレンの舞を見る宴に参加できるのですからな」

 

「そうなのか?セイレンから招待された」

 

「なんと!それはますます運が良い」

 

ガングスはアルベンスを持ち上げて気分を良くする。

 

商人をまとめる協会の会長を務めるガングス自身も大きな商会を運営している。

 

「若い人は応援したくなりますな、金貨二枚といきましょう」

 

「なら俺は金貨五枚だな」

 

「羽振りがよろしいですな」

 

宴の支払いは舞に対する祝儀だけではなかった。

 

食事も含まれてくる。

 

「ガングス殿、新しい舞が始まるようですぞ」

 

「それは楽しみ、楽しみ」

 

アルベンスは自分をおいて会話を楽しむ他の客たちのことを疎ましく思っていた。

 

それでも自分より年上であるということと金を持っていそうだということで強く出られなかった。

 

「今宵は皆、踊りを楽しませてくれますな」

 

「ついつい祝儀を弾みたくなってしまう」

 

「セイレンの最後の客になるには、うかうかしてられませんよ」

 

「ごもっとも」

 

まだ舞を披露しているのは一人目だというのに金貨は一人あたり二十枚を超えていた。

 

さすがにアルベンスは十枚に抑えていたが、このままではセイレンの最後の客になれないのは目に見えていた。

 

「ここらで下世話な話をひとつ」

 

「そうですな」

 

「ワルナー殿にお聞きしたい」

 

「セイレンの身請けの代金というところですな」

 

「さよう」

 

普段なそんな話は絶対にしないがアルベンスに聞かせるためと絶対的な財力を持つ者だと知らしめるための茶番だ。

 

そんなことにも気づかずにアルベンスは聞き耳を立てていた。

 

「十、というところですな」

 

「ほう」

 

「なるほど、なるほど」

 

アルベンスは発言することはなかったが、それくらいなら用意できるとして内心は笑っていた。

 

それがどんな意味を持つのかも知らずに。

 

「俺なら二十は用意できる」

 

「それは、それは」

 

「なんとも羨ましい話ですな」

 

「お若いのにしっかりとしている」

 

「このおいぼれでは金塊を二十どころか十も夢のまた夢」

 

アルベンスに酒を進めたガングスは勘違いをしているのを知った上で煽てた。

 

金塊となると金貨千枚に値し、二十本ともなると金貨二万枚となる。

 

用意するとなれば侯爵家以上でなければ財源が伴わない。

 

「ワルナー殿の財力にはいつも脱帽ものですな」

 

「好きに出来るだけの財力がなければセイレンを身請けするなど愚の骨頂ですからね」

 

「いやいやお恥ずかしい」

 

勘違いから見栄を張ったアルベンスは血の気の失せた顔をしていた。

 

さすがに金塊を用意できるほどカナリアが富豪ではないのは知っている。

 

「次の子も美しい舞を披露しますな」

 

「どれ金貨十枚といきましょう」

 

「今宵は本当に楽しい宴ですな」

 

着飾った踊り子が舞を披露すればするほど金貨が増えていく。

 

上手いこと言ってアルベンスにも金貨を出させていく。

 

すでにアルベンスの前には金貨が八十枚積み上がっているが、他は百枚を超えていた。


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