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いつもより機嫌の良いアルベンスなら相手をしてくれるのではないかと、女たちが集まった。
「最近、ご無沙汰じゃないか」
「マンナか」
「どうだい?今夜?」
「今夜は行くところがあるんだ。また明日な」
身請けされたあとに心変わりをして他の男のところに行っても問題ないと本気で思っている。
本当なら同等の金かそれ以上を支払う必要があるのを知らなかった。
「早く行っても問題ないよな」
金庫から金貨を出しているセルバドスに声をかけた。
「もう出るが金は用意できたか?」
「奥様よりこちらをお渡しするようにとの仰せでございます」
「おいおい、まだ金庫にあるだろう。もっと入れろよ」
「こちらの袋には金貨百枚入れてございます。それ以上は重くなり持ち運べなくなります。ご入用の際は奥様にお声がけください」
「仕方ねぇな。ま、重いのは困るな」
平民が出会うこともできないくらいの大金を平気な顔をして持つと貸別荘を出た。
上から見れば金を持っているということが分かるが注意することもなく人込みを歩く。
これで何度かスリにあったこともあるが、その都度カナリアに用意させていた。
今回は安全のためにヒナゲシが後ろを付けていた。
「あのような大金を持ち運び慣れているのは如何なものか」
ユーリーンと同じように屋根から屋根へと飛び移るが、違うのは音がしないことで誰にも気づかれていないことだった。
アルベンスの懐のものを狙おうとする輩は多いが行動に移す前にヒナゲシに牽制される。
これだけでアルベンスはヒナゲシの獲物だと知らしめることができる。
「ようやく店に着き申したか。これであとはセルラインに任せたもう」
店の扉が開いてベネガが溜め息を吐いてアルベンスを迎えたことが遠目でも分かった。
“魅力”にかかっていたときは何も思わなかったが、今ではアルベンスが女という女に手を出しているようにしか思えなかった。
「あのような男に心奪われてしまったとは、ヒナゲシは修行が足りぬ。本格的に暇乞いをして鍛えなおさねばならぬ」
姿が見えなくなったことを確認して駐屯所に戻った。
店の中ではベネガとアルベンスの支払いに対する攻防が始まった。
「おかえりなさいませ、アルベンス様」
「おう、それでセイレンはどこだ?」
「セイレンは旦那様が決まりましたから最後の舞まで店にはおりませんよ」
「何だと!?すぐに呼べ」
「その前に逗留された支払いを。セイレンがお支払い願い書を持って向かったと聞きましたので」
金額を見たのはカナリアとセルバドスだけでアルベンスは見ていない。
支払いと言われても寝耳に水だった。
「支払い?何のことだ?俺はセイレンに舞を披露するから来てくれと言われただけだ」
「さようですか。では最後の舞について説明させてもらいましょう」
「説明?」
「はい。身請けされる踊り子が舞を披露し、それにご祝儀を渡す。その金額が一番の方が最後の客になる。簡単なことでございましょう」
これがセルラインの本当の身請けならアルベンスの懐にある金貨では足りない。
代わりに金細工や宝石が飛び交う。
「夜になればセイレンと会えますよ。それまでは寛いでくださいな」
「分かった。酒を出せ」
「セイレンの最後の舞とあって総出で準備をしなくてはなりませんので、相手をしていられないのですよ」
ベネガはゆったりと微笑んで二階に上がった。
飾りつけや食事の用意に衣装など準備することは多岐に渡る。
本当に客として通ったことがあるのなら昼間に店に行くことはない。
「またこの衣装を着ることになるとはね」
「このままワルナー様に身請けしてもらいよ」
「周りが反対するわ」
「そうかしらね?」
レースで作った衣装を着ると肌が透けて見えるところが煽情的だった。
装飾品で煌びやかに見せるために着付けには時間がかかる。
「好きなんじゃないの?」
「好きよ。でもね。何だか怖いのよ」
「そう言えば良いのに」
「これで良いのよ」
本気で好きになっても結ばれることの少ない職業だからベネガはセルラインが羨ましかった。
身請けされることなく自力で借金を返して思い人を見つける。
「そういうものかしらね」
「国に帰れば大勢の妃候補がいるのよ。わたし一人に構ってたらそれこそ大変だわ」
その妃候補よりもセルラインが良いから国にも帰らずに旅をしているのだと思う。
それに気づかないはずはないのに見て見ぬふりをしているセルラインは痛々しかった。
「今はアルベンスからハーレムを奪うことね」
「そうよ。久々で腕がなるわ」
「・・・・・・そうだった。あんたは美人局のセイレンだった」
「失礼ね。ちゃんと一番の人がいるっていつも言ってたわよ」
どんなときでもワルナーを一番にして、勘違いをしそうな客には態と鉢合わせをさせて諦めさせたこともあった。
ついた名前が美人局のセイレン。
二番目でも良いと言う男も多かったから、それだけの美貌と踊りを持っていた。
「これが終わったらワルナー様と飲み比べでもしようかな」
「請求はセルライン、あんた持ちだからね」
「分かってるわよ。さすがに樽酒を貢がせる趣味はないわよ」




