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見せられるだけ肌を見せる踊り子の衣装を着たセルラインは上からマントを羽織ってアルベンスがいる貸別荘に向かった。

 

隠していてもセルラインの体の形は分かるから道行く男は皆、振り返っていた。

 

「ここが根城ね」

 

中には潜入中のヒナゲシがいるから部屋の構造は事前に分かっている。

 

それでも手順というものは必要だ。

 

「もし、開けておくんなし」

 

「・・・・・・どちらさまでございましょう」

 

「セイレンでございます。旦那様にご挨拶を」

 

「こちらには旦那様はおりません。お引き取りを」

 

「いいえ、アルベンス様がいらっしゃいます。わたくしはアルベンス様に届け物に参りましたの」

 

玄関口で言い争う姿を見られることを嫌ったのだろう応対をしていたセルバドスは扉を開けた。

 

そこにはマントを脱いで煽情的な恰好のセルラインが頬笑んでいた。

 

「こちらでございます。検めてくださいまし」

 

「お預かりします」

 

さりげなく胸をセルバドスに押し付けるのを忘れていない。

 

家令としての仕事を忘れてはいないが視線がある一点に止まるようになった。

 

「・・・・・・これは」

 

「わたくしの店での支払いのお願いですわ。とても贔屓にしていただいておりまして」

 

「何かの間違いではございませんか?」

 

「いいえ、幾夜も訪れをお待ちしておりましたのよ」

 

「確認して参ります」

 

アルベンスは頻度が減ったとはいえ、ヒナゲシをお気に入りで指名していた。

 

新しい女が増えても平等に相手をしてきたから我慢もできたし、仕事柄、旅に出る者もいたから表立った不満はなかった。

 

水面下で燻っていた不満が顕在化してきている。

 

「さて、どうでますかしら?」

 

直接アルベンスに確認をしたところで支払うようにと言うだけだろうからカナリアの方に確認しに行ったと思われた。

 

自分の男が踊り子に三か月も熱を入れていたと知れば多少は幻滅する。

 

こればかりは“魅力(チャーム)”の効果がどこまで薄れているかに因る。

 

「奥様が話をしたいとの仰せでございます」

 

「かしこまりました」

 

「どうぞ、こちらへ」

 

構図としては本妻対浮気相手というところだが、セルラインは初めからアルベンスを手にするつもりはないから勝負にはならない。

 

ソファで寛いで余裕の表情を見せてはいるが、内心は怒りでいっぱいのことだろう。

 

「旦那様が贔屓にされている踊り子とお伺いしましたが?」

 

「大変よくしてくださいました。ですが、このたび身請け話がまとまり店を辞めることと相成りましたので、ご挨拶をと思い馳せ参じた次第でございます」

 

「それはご丁寧に」

 

「最後に舞を披露することになりましたので、アルベンス様にも御覧いただきたく思いましたの」

 

カナリアにとっては自分の男に貢がせておきながら他の男と天秤にかけていたということで虚仮にされたと思っていた。

 

「奥様が御理解のあられる方でしたので、アルベンス様も羽を伸ばすことができたのでございましょう」

 

「そう」

 

「わたくしは失礼しますわ」

 

ヒナゲシにはセルラインの行動を伝えているから時間を見てアルベンスを誘導するようにと指示が渡っている。

 

伝えることは伝えたとしてセルラインは席を立った。

 

そのタイミングで扉が開き、腕にヒナゲシを抱きつかせたアルベンスが来た。

 

「セイレン!帰っていたのか」

 

「はい、たったいま戻りました。長らくの不在の不調法を許してくださいまし」

 

「もちろんだ」

 

「そちらの方は?」

 

「ヒナゲシだ。軍から不当な扱いを受けているところを保護したんだ」

 

「まぁ!お優しい方」

 

空いている腕に抱き着いてアルベンスへのアピールは忘れない。

 

「今日はご報告があって参りましたのよ」

 

「何だ?」

 

「このたび目出度く身請けが決まりましたの。長らくの不在はそのためですわ」

 

「何だと!?誰だ!?そいつは」

 

「お気になるのなら今宵、店にお越しくださいな。最後の舞を踊りますのよ」

 

「もちろんだ。俺が見定めてやる」

 

セルラインの目的はアルベンスが他の女を口説いているところを見せつけることだ。

 

自分の権力が及ばない相手では言うことを聞かせることはできない。

 

「カナリア、いつものように金を用意してくれ」

 

「・・・・・・・・・かしこまりました」

 

 

※※※

 

 

セルラインを物にできると信じて疑わないアルベンスは浮足立っていた。

 

すでに夜のことで頭がいっぱいになっているからカナリアの表情が曇っていることに気付いていなかった。

 

「アルベンス様」

 

「どうした?」

 

「わたくしは、アルベンス様に必要でございますか?」

 

「もちろんだ。大切な女のひとりだ。今更、何を言っている?」

 

「今更、そうですわね。いつものようにセルバドスから受け取ってくださいませ。わたくしは少し休みます」

 

日当たりが一番の部屋がカナリアの自室となっている。

 

いつもならそれで気分が晴れ上がっていたが、今は鬱陶しく感じてしまっていた。

 

ベッドサイドに置いているベルを鳴らした。

 

すぐに隣の部屋に待機しているメイドが部屋に入って来た。

 

「奥様、お呼びでございますか?」

 

「セルバドスに部屋に来るよう伝えてちょうだい」

 

「かしこまりました」

 

ベッドに腰掛けると伏せたままにしていた写真立てを手に取った。

 

そのまま胸に抱いて目を閉じてセルバドスが来るのを待った。

 

「奥様、お呼びでしょうか」

 

「セルバドス、お願いがあります」

 

「はい」

 

その願いはカナリアが今まで一度もしたことのない願いだった。

 

聞き届けると黙ってセルバドスは部屋を後にした。


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