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「そんなことでいちいち切腹してたら体がいくつあっても足りないわ」

 

「かたじけない」

 

「それよりもいきなりヒナゲシがいなくなったら問題になる」

 

「そうよ・・・って潜入させるの?」

 

何かの拍子に命を絶つことができるものを出されても困るからヒナゲシの身体検査をする。

 

軍服ではなく潜入捜査用の民族衣装を着ているから隠せるところは限られているのだが、隠すという目的のために作られた衣装だから油断はできなかった。

 

「それで罪滅ぼしになるのなら火の中、水の中、どこでも潜入して見せようぞ」

 

「あっ!」

 

「隊長どうされましたか?」

 

「ヒナゲシ、ヒマならいくらでもあげるからいいよ」

 

「主君に不要と断じられた駒はもはや生きている価値なし、かくなるうえは死して詫びるのみ」

 

軍を辞めるという騒動でユーリーンのときは泣いて止めるということをしたが、ヒナゲシに対しては冷たかった。

 

「隊長、ヒナゲシがせっかく前向きになったのに」

 

「そんな怪しげな薬!どこに隠し持ってたのぉ!?」

 

「見返せば良いでしょ」

 

「主君なき駒はただの駒」

 

「うん、そうだね」

 

脇差を抱えながら呟く様子は恐怖を与える。

 

ぶつぶつと呟きながら自己完結していくヒナゲシをただ見守る。

 

「この打ち砕かれた誇りを取り戻すには、もはや憎きアルベンスの化けの皮を剥ぐことでしか出来ぬ。一度、口から出た言葉は飲み込むことは出来ませぬ。これにてヒナゲシは誇りを取り戻すために暇を頂戴したく存じ上げます」

 

「そう」

 

「では、さらば」

 

ユーリーンの“スペル”ではなく修行によって培われた脚力を持って部屋から瞬時にいなくなった。

 

これで潜入捜査は開始された。

 

「どうしてヒナゲシは面倒な性格になったのかしらね」

 

「僕、冷たくするの疲れるよ」

 

「しかも本気で死のうとするから止めるのも必至だし」

 

「あれで止めて欲しいから死のうとしているんじゃないから余計に性質が悪い」

 

冷たくされればされるほど本領を発揮するという性格のため取り扱いが難しかった。

 

前に一度、潜入先でスパイだと疑われることになり、あの手この手で探りを入れられたが、面倒な性格で乗り切ってしまった経緯を持つ。

 

「面倒な性格過ぎて他の隊では扱えないし」

 

「たしか、褒められて泣いて辞表出したんだっけ?」

 

「とりあえずは様子見よね」

 

「ユーリーンは巡回ね」

 

「はーい」

 

ヒナゲシとの遊びが忙しすぎて外に出ることはないだろうから通常の巡回と変わらない。

 

増えたことはベネガのところに寄るくらいだ。

 

「ベネガ、いる?」

 

「ユーリーン、今日もご苦労様」

 

「アルベンスは変わらず籠ってるわ」

 

「店への支払いもせずに困ったことですわね」

 

偽りであってもアルベンスに対しては店であると言っている以上は支払いをしてもらう。

 

店の逗留を止めると言わない限りは泊まっていることになる。

 

「セルラインが戻って来ましたら請求に参りましょう」

 

「まだ連絡が無いから時間がかかりそうね」

 

「自分で稼いだお金でしたら良いのでしょうけど、貢がせているお金ですもの。良心が痛みますわ」

 

裕福な貴族でも一か月も店に逗留することはない。

 

そんなことをすれば放蕩者と貴族社会では爪弾きに合う。

 

ユーリーンはいつもの巡回を終えると駐屯所に戻った。

 

「ただいま戻りました」

 

「おかえりなさい」

 

「セルラインから連絡が来た」

 

「何て?」

 

「ハナシ、キイタ、モドル」

 

「そこは要約してよ」

 

戻ると報告があったのなら明後日くらいには話が聞ける。

 

三か月近く隊長に会っていないから機嫌が悪いのが手に取るように分かった。

 

「セルラインのご機嫌取りを隊長にしてもらわないといけないね」

 

「何すれば良いの?」

 

「頭をぽんぽんすれば良いと思いますよ」

 

 

※※※

 

 

「隊長~セルライン戻りました。ご褒美に頭なでなでしてください!」

 

「なでなで、で良いの?ぽんぽんじゃなくて」

 

「はぅ、それはまた魅力的なご褒美」

 

隊長の膝に凭れ掛かりながら悶える様は異様だった。

 

ご褒美になでなでとぽんぽんの両方をしてもらい、ご満悦のセルラインは機嫌も復活して報告を始めた。

 

「話を聞いて来ましたよ。そこで分かったのは、グンバルダ王のハーレムに乗り込んで乗っ取ったということでした」

 

「乗っ取った?」

 

「はい、ただし王座を奪ったわけではないので、あくまでもハーレムの女たちを自分に惚れさせたというだけです」

 

王以外の男がなかなか入れないところにどうやって侵入したのかは不明だがハーレムを解散させたのは事実だった。

 

そこから後宮破壊ハーレム・クラッシャーという二つ名がついたようだ。

 

「解散したハーレムの女性たちはどうなったの?」

 

「国の法に則って砂漠の棺に向かったとのことでした」

 

「それって解散させなかったら」

 

「ですね。グンバルダ王も一人の男にハーレムを乗っ取られたという醜聞を隠したかったので政権を息子に譲って隠居したそうです」

 

希望する者は息子のハーレムに入ることができただろうが、アルベンスの“魅力(チャーム)”が効いていて断ったのだろう。

 

それでも解散させたあとのことは何も考えていなかったのか。

 

「この国なら女ひとりでも働くことはできるけど、あの国でハーレムから出た女を雇うところなんて無いのに」

 

「全員を連れて国境を越えるつもりだったみたいだけど、さすがに国境税を支払うことができなかったようで別れたようです」

 

「ハーレムにいた女たちはアルベンスのために自主的に砂漠の棺に向かった」

 

「これだけ聞くと美談だけど、無責任でしょ」

 

セルラインは事実確認のために砂漠の棺にも向かったが、人影はなかった。

 

何の装備も持たずに砂漠を歩くことはできないし、国を出られたとも思えない。

 

「グンバルダ王も密かに支援したみたいだけど、ハーレムの女が王以外の男に心奪われたことは死罪であるから不要と言って断られたって言っていたわ」

 

「何とも後味の悪いことね」

 

「というわけで、ちょっと本格的に動かせてもらうわ。向こうがハーレムを壊したのなら同じことするだけよ」

 

「ハーレムから出たあとのことはフォローするから安心して」

 

「ふふふ、首を洗って待ってなさい」


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