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少しの間があってからヴィヴィは頭を押さえて、フィアットは“スペル”を使い、ユーリーンは自分のときを思い出していた。
一番、反応が大きいのはご機嫌に届けてもらっている新作アイスクリームを食べていた隊長がスプーンを床に落としたものだった。
「どっかで聞いたセリフね」
「“鑑定”・・・・・・しっかり“魅力”にかかってるよ。しかもユーリーンのときより深く」
冗談が現実になった瞬間で、“魅力”にかかったせいで運命の男だと勘違いをしていることを説明しても認めなかった。
こうなるとアルベンスから物理的に引き離すことが必要になるがヒナゲシが会いたいと思っている以上は、どんなことをしても会うだろうから解決にはならない。
「ちょっと荒治療だけど許してね」
「フィアット?何を言っておる?どこも怪我をしておらん」
「体はね。“解除”」
「うっ」
強制的に精神作用のある“スペル”をなかったことにできる“スペル”だ。
精神作用のある“スペル”にしか効果がないのと強制的というところで使われた方は激しい眩暈と頭痛に襲われる。
フィアットの持つ“鑑定”との使い分けが難しいため頻度は少ない。
「うう吐きそう」
「成功したみたいね」
「ヒナゲシにどうやって近づいて“魅力”をかけたんだろう」
どれだけ激しい馬車に揺られても顔色ひとつ変えないヒナゲシが起きるのもままならない状態になっていた。
“スペル”のかかり具合によって症状の強さは変わるが、深くかかった“スペル”であればあるほど酷くなる。
「ヒナゲシ、水」
「かたじけない」
「けっこう深くかかってたみたいね」
「ヒナゲシ、何があったか話せますか?」
「何たる不覚。この腹を切り申して詫びせねばなりませぬ」
「待って待って」
「わぁぁぁぁぁ」
脇差を取り出すと容赦なく腹に突き刺そうとした。
それを必死でヴィヴィとユーリーンとフィアットで止めた。
脇差を取り上げてヒナゲシを落ち着かせると再度、質問をする。
「アルベンスとどこで会ったのか覚えていますか?」
「あれは任務が遂行でき気が少々大きくなり申した月が綺麗に輝いた夜のことでござった」
「・・・・・・何日前?」
「三週間前のことでござる」
質問に対する答えがずれているときがあるから軌道修正が必要になる。
この会話を軌道修正することなく成立させるのが隊長だったが今は餅を食べるのに忙しかった。
「場所は?」
「ここから五キロメートルほど離れた屋敷にて会い見えることになったしだいでございまする」
「そこには大勢の女性がいた?」
「はい、ただ少々揉めていたようでございました。一人の殿方を巡って女人が今日は我であると主張して険しい表情をしていた模様でござった」
カナリアが借りた別荘で揉めていたのは連れて来た三十人の女も一緒にいるのだろう。
アルベンスを独り占めしたくても毎日日替わりとなれば一か月に一回になる。
選ぶ権利はアルベンスにあるから一か月に一回にもならないかもしれない。
「刃傷沙汰とかにならなければいいけど」
「ベネガもそうだけどニルナのとこにいたときは完全に居候だった」
「女性たちをまとめるというようなことはしなさそうね」
さすがに何もないのに屋敷に踏み込むことはできない。
それに相手が貴族ともなると事前に申請も必要になってくる。
「で、ヒナゲシは三週間なにをしていたの?」
「アルベンス氏に我が一族に伝わる秘儀によりもてなしをしておった」
「それで揉めてたのか」
ヒナゲシの味を占めたアルベンスはきっと寝室に籠っていたのだろう。
ようやくアルベンスとの蜜月が復活すると思った矢先に、現れた女にアルベンスを盗られる。
きっとアルベンスは何も言わずに好き放題していたのが手に取るように分かった。
「アルベンスに何か話をしましたか?」
「夜空に輝く星のような美しき瞳を持つ君と共にありたいと申された」
「・・・軍のことは話した?」
「いかに心奪われていようとも秘密を話すほど愚かなことはいたしますまい」
「それで三週間経って戻って来た理由は?」
「不覚にも運命の男などと惑わされ暇乞いに来なければ恩を仇で返す所業になると思い戻って参ったしだいでござる」
肩を震わせながらヒナゲシは隠し持っていたクナイで喉を突こうとした。
すぐに見つかってクナイは取り上げられたが気は収まっていないようだった。




