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「はぁ?」

 

「なんとまぁ」

 

「へぇ」

 

「権力主義で助かったけど」

 

アルベンスの支援者が貴族ではないかと予想はしていたが本人が直接駐屯所に来るとは思っても見なかった。

 

だがアルベンスは軍が要注意人物として調査していますので知っていますとは、口が裂けても言えない。

 

「ここはフィアットとヴィヴィで行くのが良いと思うけど?」

 

「そうですね。隊長にはユーリーンと巡回に出ていただきます」

 

「また巡回?僕、アイスクリームが食べたい」

 

「クッキーもパフもいらないんですか?」

 

「よし、ユーリーン!行くよ」

 

ヴィヴィは隊長の扱いをよく心得ていた。

 

同じところにいたら暇だというところで乱入してしまう。

 

「では、話は私が聞きます」

 

「ユーリーン、隊長のこと頼んだよ」

 

できるだけ外に出て帰ってくるなということを暗に示していた。

 

きっと隊長の気が済むまで甘味巡りをするのだろう。

 

無言で頷き合い実行に移した。

 

すでに甘味のことで頭がいっぱいの隊長は気づいていない。

 

ユーリーンは隊長の手を繋ぎ、そのまま外に出た。

 

それを見届けてからヴィヴィとフィアットはカナリアが待つ応接室に向かった。

 

「お待たせいたしました。副隊長のヴィヴィです」

 

「副隊長?隊長ではないの?」

 

「隊長は最重要任務に当たられております」

 

「それは、わたくしと会うことより重要なことなのかしら?」

 

「雲の上からのことですから何とも」

 

この曖昧な言い回しでカナリアは納得した。

 

自分より上の身分の人間が命令したことなら覆すことはできない。

 

「ご理解いただけて助かりますわ」

 

「ヴィヴィさんとおっしゃいましたわね」

 

「はい」

 

「家名はどちらかしら?名乗らないのは失礼なのではなくて?」

 

「副隊長の身分は公爵家である私が保証します。貴族である方に会うのですから相応の身分を持つ者で対応させていただきます」

 

フィアットが令嬢口調でいることから目の前のカナリアが階級主義だということが分かる。

 

ヴィヴィは軍の中でも本名を明かしておらず、通称名で通している。

 

「わたくしのことはカナリアと呼んでいただければ結構です。わたくしの探し人もカナリアと呼んでおりますから」

 

「探し人はアルベンスという男性でお間違いないでしょうか?」

 

「えぇ、とても優しく思いやりがあり、困っている女性を見ると、身分に隔たりを持つことなく手を差し伸べてくれる紳士ですの。二週間ほど前に困った女性たちを助けると言い残して知らせもなく寂しい思いをしていたのですが、突如として手紙が届きましたの」

 

すぐに戻れないということと金を用立てて欲しいということが書かれただけの簡素な手紙だ。

 

普通なら手紙で安否を確認するか金を送るかするが、カナリアは別の意味で行動力があった。

 

そして行動に移せるだけの財力も持ち合わせてしまった。

 

「そこには、お金が必要だと書かれておりました。きっと、きっと不遇な女性を助けるために悪い奴らに騙されたのです。わたくしは居ても立っても居られない思いで町まで来たのです。早くアルベンス様を見つけて悪い奴らを罰してくださいませ」

 

「分かりました。では見つけました際には、どちらにご連絡を差し上げたら良いでしょうか?」

 

「ここより馬車で三十分ほど行ったところにある貸別荘ですわ。急遽借りましたので手狭でお恥ずかしいのですが」

 

このあとはアルベンスがいかに素晴らしい人格者であるかを語りだし一応出したお茶のおかわりまで要求しカナリアは仕立て屋に行くということで話が止まった。

 

ようやく解放されると安堵したヴィヴィとフィアットは駐屯所の入り口まで送って再度驚くことになった。

 

「馬車がまだ来ていないようね」

 

その一言で目の前にいるのが貴族の生活しか経験したことがなく、世話をされるのが当たり前だということに思い至った。

 

身分では貴族でも自分で手配することに慣れているヴィヴィとフィアットでは忘れていたことだった。

 

「・・・少々お待ちください」

 

フィアットは使うことのない馬車を呼ぶ笛を鳴らした。

 

かなり遠くまで響き、音の聞こえ方で距離を測り、音の間隔で馬車の種類を特定する。

 

いつもなら一番下の馬車を呼ぶがきっとカナリアは乗らないと考えて高級な馬車を呼んだ。

 

見えるところにいる馬車だったが、その距離を歩くことすらカナリアは嫌うと見込んでいた。

 

それは正しい選択だった。

 

「まぁすごいわね」

 

「馬車に乗りましたら行先を告げてください」

 

「どうしてかしら?」

 

すごく当たり前のことだが、馬車の手配から全てを任せていたのなら知らない。

 

早くいなくなって欲しいという思いからフィアットは全て手配することを決めた。

 

普通ならフィアットを小間使いのように使うなどあり得ないことだった。

 

「・・・どうぞ、お乗りください」

 

「まぁ椅子が固いわ」

 

「見つかりましたら連絡いたします」

 

御者に行先を告げてフィアットはヴィヴィと共に頭を下げて見送った。


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