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「カナリア」
「何でございますか?」
ベッドの中でアルベンスにしな垂れかかりながら気だるげに答えた。
コルセットで締め付けて元の形を失っていた胸を思う存分に押し付けてカナリアはアルベンスを誘っていた。
「軍にいる弱いやつは、どの町にいるんだ?」
「ここから三日ほど馬車で行った町に駐屯しているようですわ。さすがにこれ以上のことは時間を頂戴しないと分かりませんけど」
「いや、十分だ。しばらくはお前たちを可愛がるので忙しいからな。充電出来たら出発してすぐに戻ってくるさ」
「お早いお戻りを」
カナリアはすでに戦いを想像しているアルベンスを眺めながら服を着た。
あまり長い間、独り占めしていると不満が生じる。
次に呼ばれる可能性の高い女たちにサロンで待つようにと声をかけてから自室に戻った。
屋敷の女主人であるから部屋には専属のお風呂がついている。
「奥様、湯殿の用意は整っております」
「ありがとう」
屋敷の管理をしているメイドたちもアルベンスの虜になっている。
だからカナリアのことを咎めることはない。
「本日は薔薇の香油を入れております」
「いい香りね」
「アルベンス様が新しい方をお連れになられたとお聞きしましたが真でございましょうか」
「本当よ、町の飲食店で給仕をしている娘を連れて来たのよ」
「また新しい方が」
「ここはもう一人で良いわ。サロンでお茶の用意をしていなさい」
「かしこまりました」
アルベンスに心酔してはいるがメイドという本分を忘れてはいない。
濡れたメイド服を脱いで、新しいものに着替えてお茶を用意するためにサロンに向かった。
「うん?お茶か。喉が渇いた。くれ」
「かしこまりました」
先ほどまで沈んでいた気分もアルベンスに声をかけられて浮上した。
アルベンスの好みのお茶は把握していて目を閉じていても淹れることができるくらいに練習していた。
「うまいな」
「ありがとうございます」
「これを飲んだら部屋に来いよ」
メイドの手を握り、耳元で囁く。
この屋敷での君主はアルベンスだから何をしても許された。
「すぐに参ります」
「待ってるぜ」
カナリアがサロンに行くように言ったことを心から感謝しながらメイドは上機嫌にアルベンスの部屋に向かった。
※※※
「さてと、そろそろ行ってくるか」
「馬車は手配していますわ」
「しばらく留守にするが、良い子にしていろよ」
アルベンスはカナリアが手配をした辻馬車に乗って標的のいる町に向かった。
馬車で三日かかる道中には宿と食堂だけの町に立ち寄りながら進む。
そこでも決闘を申し込み女を見つけては根城にしている屋敷へ送った。
路銀はカナリアが十分すぎるくらいに用意しているから多少豪遊しても無くなることはなかった。
「旦那、見えて来ましたぜ」
「おっ着いたか」
「着いたら残りの半金をいただきますからね」
「途中の宿で良い思いさせてやっただろうが」
「それとこれとは別ですわ。家に帰ったらカカアと子どもがいますからね」
「そいつはいけねぇ。妻子に苦労はさせちゃいけねぇ。ほらよ、残りだ」
気前よく残りを支払い馬車の中で寝転がった。
庶民なら荷馬車に相乗りをすることが当たり前で寝転がるということはまずできない。
身なりは庶民なのに金払いだけは良いアルベンスのことをどこかの放蕩息子だと御者は睨んでいたが、その謎が解けることはなかった。
「では、あっしはこれで」
「待ちな、これで妻子にうまいもんでも食わしてやんな」
「ありがとうございます。ご入用のときはぜひお声を」
「あぁ」
辻馬車が入れるのは町の関所の前までだ。
そこでは町に入るための手続きを待っている列が出来ていた。
カナリアがいる町ではアルベンスは待たなくても優遇されているが、他の町となるとそうはいかない。
いつになるか分からないが列に並ぶことにした。
「だーかーら、私はユーリーンで、仕事で戻って来たって言ってるでしょ」
「なら身分証を見せろ」
「壊れて無いって」
「それならここに名前と所属と入町税を支払え」
「どうして私が支払わないといけないのよ。私は駐屯軍第三特務隊なのよ」
「それなら身分証を出せ」
「壊れて無いってさっきから言ってるの!駐屯軍に連絡してくれたらすぐに分かるの!」
「そんなことで軍の方の手を煩わせることはできない。ほらどっか行け」
ずっとこの調子で門番の男と軍服を着た女が言い争っていた。
女の軍人はいるが見た目では信用できない。
「待った待った」
「何だ?順番は守れ」
すぐ後ろで事の成り行きを見ていたアルベンスは金貨一枚を出して門番の注意を引いた。
本当は見て見ぬふりをするつもりだったが言い争っていた女が思いのほか可愛かったからに過ぎない。
下心を隠して良い人の笑みを女に向けて金貨を門番に差し出した。




