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急いで町に到着するために途中の宿での休憩を短くしたことでカナリア以外の女は疲れていた。

 

四人掛けの馬車で乗り心地も良くないのに乗り続けていれば腰も痛くなる。

 

カナリアと使用人は同じ四人掛けでも椅子の素材は最高級品で乗り心地も良いものだった。

 

特に差別したわけではなく、馬車を借りるときに貴族婦人と使用人と平民が乗る馬車を借りたいと貸馬車屋に言った結果だ。

 

「皆さま起きて来られないようですので、簡単な食事を用意しておきました」

 

「手間をかけさせたわね。貴女たちも疲れたでしょう。セルバドスと共に夜まで休んでいなさい」

 

「ありがとうございます」

 

「用が済み次第、仕立て屋に寄ってから戻ります」

 

カナリアがいた町では定期的に仕立て屋が訪ねて来ていたが、それはカナリアが常駐していたからだ。

 

この町に仕立て屋という貴族が利用する店はなかった。

 

遅めの朝食を終えるとカナリアは呼びつけた馬車に乗って駐屯所に向かった。

 

「奥様、軍に何しに行くんで?」

 

「余計な詮索は無用です」

 

「へぇへぇ、でもそのヴェールはいただけねぇと思いますぜ」

 

「わたくしの美貌を拝むなど平民には過ぎたことです。黙って操縦なさい」

 

外に出るときにはいつもヴェールをしていたから元いた町でもカナリアの素顔を知っているのはアルベンスとハーレムの女たちだけだ。

 

貴族が愛人を囲うのは珍しいことではないが醜聞は避けなければいけない。

 

カナリアは自分の身分をしっかりと理解していた。

 

「着きましたぜ」

 

「代金は屋敷に戻って受け取りなさい」

 

「へいへい、まいどあり」

 

口は悪いが操縦の腕は一流なのだろう。

 

一度も揺らすことなく滑らかに馬車は進んでいた。

 

「人探しに参りました」

 

「どうぞ、お通りください。真っすぐ見える建物で受け付けています」

 

不審者が間違って入らないようにするために見張りをしている軍人は正しい仕事をした。

 

威圧的な対応をすることなく丁寧に案内をした。

 

「何をしているのです?」

 

「はい、何でしょうか」

 

「わたくしを案内なさい。わたくしを出迎えるために立っていたのでしょう」

 

ここで門を守っていた軍人は気づいた。

 

目の前にいるのが貴族で共や引導役なしで出歩くことをしない伯爵家以上の婦人だということに。

 

軍の駐屯所があると言っても小さな町では貴族というのは子爵家か男爵家であり、一人で出歩くこともままあることだった。

 

「・・・案内役を呼んで参りますので、お待ちください」

 

「仕方ありませんね」

 

門から離れるというのは職務放棄だが目の前の貴族婦人に仕事だからできないと言って納得させる自信を軍人は持っていなかった。

 

あとで始末書ものだが貴族からの圧力で職を失うよりは、ましだと判断して急いだ。

 

第三特務隊の隊員たちがいる部屋まで来ると緊張した面持ちで扉を叩いた。

 

「・・・はぃ」

 

「失礼いたします。巡回隊第十四隊隊員マーシャル・アローンです。至急報告に参りました」

 

「報告を」

 

「はっ、おそらくは伯爵家以上の身分である婦人が人探しのため駐屯所に来られましたが受付までの案内役を所望されたため、報告に上がりました」

 

部屋にはフィアットしかおらず、身長から言えば案内役としては不適当ではあった。

 

だが身分としては公爵家であるフィアットは対貴族には強い切り札だった。

 

「一人で出歩けない人が共を連れないということほど迷惑なものはないね」

 

「・・・こちらです」

 

「マーシャル、君も災難だったね。今回は不測の事態として私の名を始末書に書いておくと良い」

 

「ありがとうございます」

 

門の外では足を踏み鳴らしていかにも不機嫌だということを隠さないカナリアがいた。

 

ヴェールで顔を隠しているが不遜な態度は隠せていなかった。

 

「案内役のフィアット・モーランだ」

 

「モーラン?」

 

「いかにも公爵家だが、案内役として不服なら別の者を呼ぶが」

 

「いえ、とんでもないことでございます」

 

さすがに公爵家相手に不遜な態度は取れなかったカナリアはすぐに遜った。

 

その変わり身にフィアットは内心辟易していたが、何も言わずに受付に向かって歩き出す。

 

軍人と言っても平民では貴族相手に強く出ることができないからマーシャルは安堵の溜め息を吐いて門を監視する任に戻った。

 

「人探しと言ったな」

 

「はい、二週間ほど前に、こちらの町へ行くと言ったきりで、心配で探しに参りました。こちらには駐屯軍があると人伝に聞き及びましたので、取るものも取らず、藁にも縋る思いで遠路はるばる参りました」

 

「その探し人の名は?」

 

「アルベンスと言います。とても勇敢な方で、きっと溢れんばかりの正義感で事件に巻き込まれてしまっているに違いありません」

 

第三特務隊で問題視しているアルベンスの手紙の相手らしき人物が駐屯所に来て、フィアットは叫びそうになった。

 

これは一人で対応できる案件を超えているが隊長を直接会わせるのは危険だった。

 

知らなければ隊長を子どもだと思って怒り出してしまう。

 

応接室に案内をして待つようにと伝えた。

 

「こちらで待っていてもらおう」

 

「はい、もちろんですわ」


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