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「・・・という感じで覇気というものがまったくなくなっています」
「うん、ベネガの報告も同じ感じだね。ときどき踊り子たちを口説いては断られているということだね」
「“魅力”が効いていないということでしょうか?」
「おそらくは感情が高ぶっているせいで“破壊”が優位になっているんだろうね」
「女性が落ちないからますます機嫌が悪くなっているということですか」
悪循環にすっかり陥っていることに気づかないまま過ごしているあたりは格が知れていた。
ベネガが言う一週間という期限が迫っている中、重要な手がかりが町にやってきた。
「そしてね、アルベンスの手紙の相手が町に入ったという情報があるんだ」
「カナリアですか?」
「そう。しかも本名じゃなくカナリアで入町したんだ」
貴族のお忍び旅行のときには珍しいことではないが女が偽名というのは珍しかった。
カナリアは正規の手続きで町に入ったが一人で入ったわけではなかった。
「お供の女性を大勢引き連れて」
「はぁ?」
「さすがに昼間に入ると目立つから夜にこっそりと入ったらしいけどね。職業もばらばらでお手伝いまでいたらこっそりの意味はないよね」
直接顔を見たのなら素性が分かりそうなものだが、そこは抜かりなかった。
ヴェールで顔を隠し、やり取りは全てお手伝いがしたそうだ。
とりあえず二週間滞在をするということで空き別荘を借りているようだった。
「アルベンスと接触するためということですよね?」
「そうだと思うけど、女ばかりで三十人が入った。これがアルベンスのハーレムなら規模としては大きいよね?」
「その人数だと王族くらいしか話を聞いたことがないですね」
「ユーリーンはカナリアの動向を探ってくれる?」
「かしこまりました」
アルベンスのパトロンなら貴族である可能性が高い。
そして今回町に来た集団がドルスラ子爵家の末っ子が話題提供してくれた人物なら少なくとも伯爵家以上の家格になる。
「手紙が届いてからかどうかは分からないけど別荘を二週間借りることが簡単に出来る財力を持つ人物ということだね」
「もし圧力をかけられることになればフィアットがいれば問題ないですが、面倒なことになりそうですね」
「セルラインが戻ってくるまでは様子見だね」
まだセルラインは到着していない。
軍人の何人かを引き連れて出発しているから普通の旅よりも早く着くだろうが、それでも時間はかかる。
カナリアは生粋の貴族だということ隊長を含めて失念していた。
※※※
ぞろぞろと借り別荘に付くとカナリアはリビングのソファに座った。
町の中の道の広さは大通りの道以外は狭いため馬車を使うことができないから歩いていた。
普段歩くということをしていないカナリアにとって町を歩くということですら疲れることだった。
「疲れましたわ。お茶を淹れてくださる?」
「私たちはカナリアさんの使用人じゃない」
「まぁそんなことは分かっていましてよ」
カナリアが連れて来た使用人はベッドを整えたり湯殿を用意したりと忙しくしている。
お茶を淹れるということですら自分でしないカナリアにとって誰かに頼むことはごく自然な成り行きだった。
相手が使用人であることは重要ではなく、自分より身分が上か下かが重要だった。
「お忘れのようですけれども皆さんが日々お住まいなのは、わたくしの別荘ですわ。言わば居候の身です。お茶のひとつくらい淹れてもよろしいのではありません?」
「ちっ、マスターに相手もしてもらえないからって八つ当たりとはみっともないね」
「マンナさん、旦那様は柔らかいのが好みですのよ。鏡を見ることをおすすめしますわ」
「あっ、わたしが淹れます」
「マリア!こいつに淹れる必要なんてないよ」
「でも」
言い争いは使用人たちが寝室の準備ができたと呼びに来るまで続いていた。
カナリアのお茶はメイドがすぐに淹れて他の者は釈然としないものを抱えながら思い思いに部屋に引き上げた。
「・・・皆が貴女のように分というもの弁えていれば良いのですが上手くいかないものですね」
「奥様」
「旦那様も踊り子風情に現を抜かすようではまだまだですわね」
アルベンスからの手紙には路銀が無くなりそうだから送って欲しいということと成り行きで踊り子を助けることになったから金を用立てて欲しいということだけだった。
すぐに戻るという言葉を信じたが戻ってこないアルベンス恋しさにカナリアは追いかけることにした。
最初は自分ひとりと使用人だけで行くつもりがアルベンスのハーレムにいる女たちが同行すると言い出し、思いのほか大変だった。
カナリア以外は働いていると言っても平民では馬車を借りることも旅をすることもできない。
仕方なくカナリアが連れて行くことになった。
「明日の昼に駐屯所に向かいます。旦那様のことを探していただきます」
「かしこまりました。本日の湯殿にはカモミールの香油を入れてございます」
「ありがとう」




