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冷たいお酒が何本も運ばれてアルベンスとワルナーの前に並べられる。
肴も用意されて勝負の舞台は整った。
踊り子を口説いて自分に接待をさせるつもり目論見が大きく外れた。
「ちょっと待て」
「どうしました?アルベンス様」
「同じ徳利から注げ」
「あら嫌だ。私たちがいかさまをすると思いになっていらっしゃる?」
アルベンスの懸念通りにワルナーの前の徳利の中身は水だ。
酔わせて本音を聞き出すことが目的だからワルナーにまで酔ってもらっては困る。
「信じてはくれませんの?アルベンス様」
「いや、そうではないが」
「私のお酌ではお嫌でしたのね?セイレン姐さんでないとアルベンス様には釣り合いませんもの」
「良い女だと思うぞ。ほら酌をしてくれ」
袖で目元を押さえて泣き真似をしてアルベンスの動揺を誘う。
こんな簡単な手口だが慣れていないアルベンスは簡単に引っかかった。
「よろしゅうございますよ」
「あら、妬けますね。ワルナー様は私のお酌でもよろしいですか?」
「もちろんだ。今宵の酒は一段と旨い」
「まぁお上手」
楽し気な会話に苛立ちを覚えて杯を空けるのが早くなる。
飲めば酔いが回るのが早くなるだけなのに苛立ちのせいで気づいていなかった。
「お強いのね」
「まぁな」
「私は弱いからいつも困るの。弱い女はお嫌い?」
「いや、嫌いじゃないさ」
「嬉しいわ。アルベンス様にはお嫌いなものはないのでしょうね」
頬が上気して気分が良くなってきたのを見てスノラナがアルベンスの胸にしなだれかかった。
黙ってウルイカは杯に酒を注いだ。
「嫌いなものはあるさ」
「お聞きしたいわ」
「弱い男が嫌いなんだ」
「それはお酒にということですの?」
詳しいことを話しそうな雰囲気になったからウルイカは杯に注ぐ酒の量を少なくした。
「酒だけじゃない。力も全部だ」
「まぁアルベンス様はお強いのですね」
「もちろんだ。弱い男のもとにいては女が幸せになれないからな。弱いくせに女を侍らしている奴がいたら懲らしめてやることにしている」
「弱い男を探してこの町にいらしたの?旅をされているのでしょう?」
緩やかに本題に移った。
スノラナとウルイカは酒を飲ませるのを止めてチーズを口元へ運んだ。
「あぁ弱いくせに軍人をしている男がいると聞いた」
「まぁそんな方が?」
「でも軍人でも前線に立たれる方だけではありませんわ。医療班にいるドルドー中将は戦う力をお持ちではないですが、多くの方を治療していらしたようですもの」
最初は徴兵によって衛生兵になり、そのまま医療の知識を学んだことで半世紀に渡り第一線で活躍をしている。
「ドルドー中将は女を侍らしているのか?」
「愛妻家で今は亡き奥様だけ思って後添えを断られたのは有名な話ですわ」
「たしかに女のお孫様が多くていらっしゃるから一緒に歩かれたら侍らしているように見えるかしら?」
「それはドルドー中将に失礼になってしまうわ」
「そうか。ほかにはいるか?」
家族なら一緒にいてもおかしくはないし、アルベンスにとっても侍らしているという考えではない。
「他にと言われましても」
「そうね。困ったわね」
「おやおや、ずいぶんと話しが弾んでいるようだが、私との勝負は忘れていないだろうね」
「忘れていないさ。そっちこそ進みが遅いようだが?」
ワルナーからの嫌味も通じず普通に返してしまった。
話に夢中になっていたがワルナーの方には踊り子が五人ついていた。
それを横目で確認をしてアルベンスは舌打ちをした。
「そうねぇ。弱いかどうかは知らないけれど女性が多い隊は知っているわ」
「知っているなら教えてくれ」
「そんな簡単に教えないわ。だってそれを知ったら店に来てくれなくなるでしょう?」
「今も泣いている女がいるかもしれない。教えてくれ」
杯を置いてスノラナの肩を掴んでアルベンスは懇願した。
踊り子の前で他の女の話をするのはご法度だ。
「他の女のところに行くと分かって、涙で袖を濡らすことになるのに、目の前の女はどうでも良いのですね?」
「同じ女なら分かるだろう。辛い思いをしているのだから助けないと」
「いいえ、分かりません。いい人になってくださると思ったからあの夜だってセイレン姐さんの代わりを務めたというのに」
「本当に酷い人」
しなだれかかって甘えるようにしていたがスノラナもウルイカもアルベンスから離れた。
そのままワルナーの方に向かいお酌を始めた。
それを黙って見ているアルベンスではないからスノラナの腕を取り引き寄せた。
「まぁ乱暴なお方」
「勝手に余所の男に行くのは酷くないというのか!?」
「踊り子は飛び回る蝶のようなもの。かごに入れて閉じ込めることはできないものですよ」
「あれだけ可愛がってやったことも忘れたか!?」
「さぁ?何のことでございましょう。手をお放しくださいな」
スノラナは腕を掴んでいる指を解いて二度と捕まらないようにワルナーの側に座った。
虚仮にされて顔を真っ赤にしているアルベンスは徳利に直接口をつけて飲み干した。




