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軽快な音が聞こえてユーリーンは音源の方に顔を向けるとアルベンスが平手打ちをされているのが見えた。

 

遠いが視力は良い方であるから見間違えることもない。

 

そして相手が受付にいるモーナだというのも分かった。

 

「よりにもよってモーナに声をかけるとは」

 

職場が近いから会えば話をするし、軍の中で数少ない女ということで親近感もあった。

 

問題は恋愛に関してだけモーナが一方的に敵対心を持っていることだ。

 

それ以外は良い友達だった。

 

「両頬を平手打ちするあたりは抜かりないわね」

 

モーナの平手打ちは的確に捉え、最大限のダメージを与えるくらいに効果が高い。

 

二、三日は手形が取れないから悲惨なことになる。

 

「さてと巡回巡回」

 

傷心のアルベンスを慰めるほど、お人好しでもないし少しくらいは痛い目を見れば良いと思っている。

 

数日前にアルベンスに平手打ちしたことは記憶からきれいに無くなっている。

 

「今のところ被害にあっているって感じはないわね」

 

後宮破壊ハーレム・クラッシャーという二つ名から目が合っただけで恋に落ちるのではないかと思っていたが期待外れだった。

 

最初に気づかれないように“魅力(チャーム)”をかけられたが、それ以降は自力で抵抗することができる程度だった。

 

「でも他国の王族のハーレムに近づくことができるって。本当に平民?」

 

身分が高ければ招かれることはあるかもしれないが、それでもハーレムに招かれることはない。

 

後宮だってそうだ。

 

王以外の男は立ち入りを禁じられている場所だから、おいそれと近づくことはできない。

 

「まさか他国の王族とかで、身分は隠しているとか?」

 

一番可能性の高い仮説を思い浮かべたが、すぐに打ち消した。

 

もし王族なら出歩かせることはないはずだ。

 

魅力(チャーム)”を使って自国の家臣たちの忠誠を高めようとする。

 

異性にだけ効果があるものではないから十分に有効だ。

 

「問題は、アルベンスという名前で記録がほとんどないということよね」

 

時々、町へ入るための関所で名前を見かけるが、それ以外には何も出て来ない。

 

一度でも働いたことがあれば役所に記録が残るし、働いたことがなくても学校に通ったら卒業記録が残る。

 

「体が弱くて学校に通ったことがないとか?いや、そもそも学校に通えないくらいに貧乏だったとか?」

 

巡回をしていても問題がないから独り言が多くなってしまった。

 

それでも周りへの警戒は怠っていない。

 

「そう言えば、どこに泊まってるんだろ?」

 

巡回を終えて昼食代わりのクリームパイを買って駐屯所に戻った。

 

 

※※※

 

 

ソファには機嫌の悪いフィアットが寝転がっていた。

 

アフタヌーンドレスを着ているからどこかのお茶会に出ていたのだというのは分かる。

 

「おかえりなさい」

 

「ただいま」

 

「フィアット、ユーリーンが帰って来たわよ」

 

「うん。まず結論から言えば、アルベンスを支援している貴婦人が誰か分からない」

 

公爵家という立場からすれば出られないお茶会はない。

 

貴族の情報を集めようと思えば全てを手中に収めることができ、分からないのは王家の内情のみというくらいだ。

 

それも時間をかければ知ることはできた。

 

「夫以外の男性を支援して囲っている貴婦人なんて掃いて捨てるほどいるもの。ドルスラ子爵家の領地だって広いし、さらに別の貴族のお忍びの別荘とかあるし、一日で分かるわけないでしょ」

 

「それもそうですね」

 

「ただ、公爵家、侯爵家までなら何とかなるけど、伯爵家以下ともなると親族じゃないと無理ね」

 

「探りを入れすぎて、こちらの手の内を知られるのも問題ですものね。この方面から調べるのは、ここまでにしておきましょう」

 

格の上の家から探りを入れられれば怪しむ。

 

それが軍に所属している家からなら尚更のことだった。

 

「ユーリーンは何かあったのかしら?」

 

「えぇあったわ」

 

巡回途中に見かけたアルベンスとモーナのことを話した。

 

モーナには悪い男に目をつけられて災難だったと同情するがアルベンスに対しては自業自得だと思う。

 

「今度、町で会ったときが憂鬱だわ」

 

「お気に入りのセルラインがいなくなってるからユーリーンへの執着が増すでしょうね」

 

「とにかくプライベートは会わないと徹底するわ」

 

「それが賢明ね」

 

「あと、気になったのが、アルベンスがどこに泊まっているかということなんだけど」

 

平民だというのに格好も羽振りも平民らしくなかった。

 

それに出会った公園のあたりでは平民向けの宿は無いから散歩で見つけたというのも無理があった。

 

セルラインが店だと偽った界隈も高級な店が立ち並ぶからアルベンスが歩くのは不向きだった。

 

「宿?」

 

「だって一週間でしょう?よっぽど金持ちじゃないと無理でしょ?」

 

「あの界隈だと、最低でも金貨一枚からで食事や洗濯となると金貨二枚は超えるくらいですね」

 

「しかも外での食事も豪勢だったし」

 

ときどき鉱山夫が高価な石を見つけて大金持ちになることがあるが雲を掴むような話だ。

 

「宿はどこに泊まっているかはすぐに分かるとは思うけど」

 

「問題は“スペル”は置いといて平民に大金を援助する貴婦人の存在よね」

 

「軍に強い繋がりを持つ家だと面倒なことになりそうだし」

 

今のところアルベンスは罪を犯したわけではないから匙加減が難しかった。


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