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「絶対に嫌です!そんな隊長と離れ離れになるなんて!ただでさえ潜入捜査で隊長不足だったのに」
「セルラインが行かないと話も聞けないし」
「手紙でも何でも送れば良いじゃないですか!隊長もそう思いますよね?」
縋りつくように隊長の足元に座り、小さな手を握りしめる。
上目遣いで懇願する顔で隊長が頷いてくれるのを待つ。
だが、隊長はどこまでいっても隊長であり、第三特務隊を統べる者だった。
「セルライン、行って話を聞いて来てね」
「たいちょー」
「頑張ってね?」
セルラインの髪を一房とり、そのまま口元へ運びキスをした。
見た目は五歳児だが立派な成人男性なのが隊長だった。
「はぅ、このセルライン!隊長のためなら火の中水の中どこまでも行って参ります」
「期待してるよ」
「ですが、離れている間ですが調査対象はどうされるのですか?」
「もう一度、ユーリーンに接触してもらうから大丈夫だよ」
「へっ?」
またアルベンスに関わるとは思っていなかったユーリーンは間抜けな声を出した。
セルラインは隊長に頭を撫でてもらうことを堪能していた。
「ということだからセルライン、急ぎ任務に当たってくれるかな?」
「御意のままに」
壁掛けに吊ったままのコートを手に取り部屋を出ると廊下をヒールで走った。
セルラインの行動原理は簡単だ。
隊長のためになるかどうかというだけで難しいことは何もない。
「隊長、私は何をしたら良いですか?」
「ユーリーンには巡回に出てもらうよ。それだけで良いよ」
「それだけですか?」
「それだけできっと面白いことになるよ」
アルベンスはユーリーンのことを諦めていないのは分かっている。
今は新しいセルラインという標的が現れたから一時休止というところだろう。
「今回はセルラインが戻ってくるまでの時間稼ぎだから深入りしなくて良いからね」
「御意のままに」
「フィアットにはアルベンスのパトロンの貴婦人について調査して欲しい」
「御意のままに」
「ヴィヴィ、君には手薄になる第三特務隊の調整をお願いするよ」
「御意のままに」
※※※
「昨日はまぁまぁ良かったな」
宿に戻る前に公園に寄って果実水を買ってベンチに座って飲む。
思いがけずに高級踊り子と一夜を共にすることができたことに有頂天になっていた。
アルベンスの身分では金はあっても店に入ることができないからだ。
「カナリアに言えば何とかなるかも知れねぇが踊り子を呼べとは言いづらいな」
カナリアの身分は貴族であるから可能だが他の女を呼べということが無神経であることは理解していた。
「アルベンスさん」
「えっと君は」
「受付嬢をしていますモーナと言います」
「名前、聞いてなかったね。モーナは今日は休み?」
「はい!それでその、アルベンスさんを見かけて」
モーナは頬を染めて言いづらそうにした。
この様子の女を見慣れているアルベンスは何を望んでいるのかが手に取るように分かった。
だが美女ばかりの夜を過ごしたアルベンスにとっては物足りなかった。
「そっか。ありがとう」
「このあとアルベンスさんは空いていますか?良かったら食事でも」
「あぁごめん。知り合いを見つけたから」
アルベンスはモーナの誘いを不意にして公園の入り口で見つけたユーリーンに興味を移した。
視線の先にいるのがユーリーンだと気付いたモーナは勇気を出して誘ったことを簡単に不意にされた怒りを込めて平手打ちをした。
軽快な音がして人々は振り返るが、それがアルベンスだと気付くと、すぐに興味を無くした。
音に驚いて飛び立った鳥を見て子どもは喜んでいた。
「さいってい」
「モーナ、待てよ」
「触らないで、さよなら」
相手が嫌悪を示しているときには“魅力”の効果は発揮されないから怒りが収まるまで待つ必要がある。
今までは“魅力”の効果が表れやすい女が多かったから他の女に興味を移しても平手打ちされることはなかった。
「少しでも良いかと思った私が馬鹿だったわ。何よ。どうせあんたもユーリーン目当てで、振られたときの保険にでもするつもりだったんでしょ」
「いや・・・」
「そういう男はまっぴらごめんだわ。二度と声をかけないで」
「モーナ」
「馴れ馴れしく名前呼ばないで!顔も見たくない!」
感情のままモーナはもう一発平手打ちをしてから公園を出た。
このことはすぐに広まってアルベンスが二股かけようとしたことは女たちの知るところになる。
アルベンスの株は急暴落するだろうが、二股など可愛いと言えるハーレムを築いていることはまだ知られていない。




