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残された女たちは羨ましそうな眼差しを向けるが騒ぐようなことはしない。
待てば平等に接してくれることを知っているから無様なことはしなかった。
「カナリア様、よろしいのですか?」
「よろしいも何も旦那様がお決めになったことを守るだけですわ」
「新しい人が来たら一緒に寝る時間が少なくなりますよ」
「カナリア様」
サロンには新しく来た女を一目見ようと続々と集まっていた。
顔は美人な部類に入るし、胸も大きかった。
いかにも男が好きそうな体つきだった。
「皆さん、わたくしたちは旦那様の強さと優しさに魅かれたのではありませんか?」
「そうですね」
「ここ最近、新しい人が増えていなかったから忘れてたよ」
「今は恋人だと思わされていた可愛そうな女性が立ち直るまで見守りましょう」
カナリアの言葉に頷く者は多いし、男の元にいる期間は一番長いから誰からも一目置かれていた。
男からの寵愛に偏りが生じないように管理しているのもカナリアだった。
「それでもぉカナリア様」
「何かしら?ロロル」
一番幼い容姿で帰って来た男を出迎えた一人だ。
胸もまな板で男が好みそうな要素はないが、珍しい種族ということから手元に置かれている。
「ご主人様にどうして他の人のこと教えたのですぅ?」
「この近くでは旦那様に敵う者はおりませんし、後宮破壊という二つ名を持つ以上、他の人は誰も旦那様に関わろうとしないでしょう。わたくしは戦っている旦那様を見たいのですよ」
「カナリア様のお考えはよく分かりましたぁ。でもでも軍人さん相手はご主人様大変よぉ」
「より強い人と戦ってこそ旦那様が真価を発揮するのです。旦那様は後宮破壊ですのよ」
実際に町では彼女ができても隠したり、早々に結婚したりして対策が取られている。
結婚していても弱い男が女を連れていることが許せないと決闘を申し込もうとしたが、恋人のように簡単には別れられない。
まずは町長に承認を貰い、次に州長に離縁届を作成してもらい、国家に離縁届が届いて完了となる。
理由も同時に記載されるから他の人と結婚するという理由は到底認められない。
一夫多妻も認められてはいるが夫の収入が悪いと認められないから貴族くらいだった。
「マスターには神の加護がついていますもの。きっと勝利へと辿り着かれることでしょう」
「シスター・ウィンネが言うならそうなんだろうね。あたしはしばらく稼いでくるよ」
「マスターのところでゆっくりなされば良いのに。ですがそれもまた神の示したもう道でございますね。冒険者マンナに加護を」
修道女の服を着ているが神だけに捧げるのではなく、一人の男にも捧げていた。
カナリア以外は全員が独身であるから交際しても咎められることはないが、一人の男を囲むというのは褒められた行為ではない。
そんなことは集まっている女たちは百も承知だった。
「旦那様がお部屋から出て来ましたら皆さまに声をかけますわ」
「カナリア様の言う通りにいたします」
自分たちが尽くしたいと思っている男が勝つ姿を見たいのは同じだった。
そして自分たちがハーレムを築いているというのも分かっていた。
「・・・・・・さすが旦那様ですわね。多くの女性を虜にしてしまわれるのだもの」
女たちがサロンから出て声が聞こえないと分かってから独り言を言った。
カナリアは男に会ったときには相手にもしなかった。
だが、気づけば別荘を住む場所として提供し、多くの女たちの働く場所を用意した。
見返りは気まぐれに閨を共にするだけで全てを捧げていた。
「・・・・・・奥様」
「セルバドス、何かありました?」
「手紙を預かって参りました」
「どなたから?」
「第三特務部隊隊長からでございます」
「あの方も律儀でいらっしゃるのね」
カナリアの実家からそのまま嫁ぎ先にもついて来た家令が音もなくサロンに入り手紙を差し出した。
綺麗に磨き抜かれたペーパーナイフで封を開けると丁寧な字で書かれた文章を読む。
「・・・・・・セルバドス、返事を」
「何と」
「心配無用と返していただければ結構よ。旦那様が負けるはずないのだから」
「御意のままに」
手紙を受け取ると恭しく礼をして音もなく出て行った。
仕える主人であるカナリアが夫以外の男に熱を上げていても、身分不確かな女の働き口を斡旋していても黙って従っていた。
諌める必要があるのだろうが、嫁いだときから夫には複数の愛人がいて顔も夫人同伴の式典のときにしか合わせていないのを知っている。
無聊が慰められるのならと醜聞にならない程度には黙認していた。
「わたくしの旦那様が負けるはずなどないのです。そうですわよね?アルベンス様」
「もちろんだ。待たせたな、カナリア。行こうか」
「はい」
「お前はいつ触っても気持ちいな」
「思うままにしてくださいませ」
新しい女が来たあとはカナリアをいつも一番に指名していた。
そして、そのあとは気分次第で部屋に連れて行く。
平等だと言いながらもカナリアは自分が一番に寵愛を受けていることに優越感を持っていた。