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奥の部屋に入るとアルベンスは連れ立った踊り子を押し倒した。

 

セルラインに虚仮にされたことがよほど腹に据えかねたのだろう。

 

相手を労わることなく欲望のままに行動した。

 

気が済んだのかアルベンスは一息をつくと手酌で酒を飲んだ。

 

「荒れていましたのね」

 

「・・・悪いか」

 

「いいえ、荒々しい方は嫌いではないわ」

 

「姐さん、ずるいわ。わたしだって」

 

アルベンスの両側から薄い布を一枚だけ纏いしな垂れかかる。

 

踊り子というよりも娼婦のような行動に近いが、踊りができない者が娼館にいるのだから間違っていない。

 

「わたしたちは踊り子」

 

「お金で踊りと一夜を売る商売」

 

「どれだけ思い人がいても足掻いても仕方ないのよ」

 

二人で交互に言葉を紡ぎ、アルベンスの同情を誘う。

 

セルラインがこの二人に相手を頼んだのは、男を落とす技術が恐ろしく高いからだ。

 

「きっとセイレン姐さんも寂しがってるわ」

 

「だってこんなに強い方なのだもの」

 

煽てられて嫌な気分が薄れたアルベンスは気を取り直して今度は優しく踊り子を押し倒した。

 

楽しそうな声を上げながら享楽に耽った。

 

踊り子は春を売ることもあるが、ここまで明け透けではない。

 

あくまでも踊りを見て楽しむだけで、その先のことは踊り子と客との信頼関係による。

 

アルベンスは踊り子という職業を根本から勘違いをしていた。

 

「アルベンス様」

 

「起きてくださいな、朝ですよ」

 

一晩、部屋に引き留める役を持っていたが、朝日が昇っても眠ったままのアルベンスを持て余していた。

 

踊り子としてではなく、女として求められ続けたこともプライドを傷つけられたとしてあまり良い感情は持っていない。

 

「まだ起きないのね」

 

「セイレン姐さん」

 

「ここは代わるわ」

 

セルラインが何か目的を持ってアルベンスを店と偽った家に招き入れて、踊り子や客まで用意した。

 

それが分かるだけで詳しいことは聞かないでおく。

 

「ベネガが呼んでいるわ」

 

「「失礼します」」

 

探る対象であるアルベンスの前で密談をするほど間抜けではない。

 

それにこの計画にはベネガを初めとした多くの踊り子が必要だ。

 

黙ったまま利用するようなことはない。

 

「アルベンス様、起きてくださいまし」

 

「んっ」

 

「もう朝ですよ」

 

「セイレン?」

 

「はい、セイレンでございます」

 

踊り子セイレンとしての仮面を被り、アルベンスの頭を膝に乗せた。

 

気だるげな表情を浮かべるのも忘れていない。

 

「昨日は、どうして来てくれなかった?待ってたんだぞ」

 

「あの方は身分のある方で、断れば店が」

 

「すまない。悪かった。楽しみにしていたんだ」

 

「いえ、恩人であるアルベンス様を蔑ろにしたのです。如何様なことでも申し付けください」

 

「いや、気にするな」

 

「それではセイレンの気が済みませぬ。今宵、踊りをお見せしますわ。踊り子は踊りを見せてこそですもの」

 

アルベンスという男が狙った女には優しいが他は“魅力(チャーム)”に頼って適当な扱いをするだろうと予測をしていたが、その通りになった。

 

一晩、相手をしていた踊り子の二人、スノラナとウルイカは初めから分かっていて相手をしていた。

 

もともとが異国の娼婦であり、物のように扱われるのには慣れていて、二人に言わせれば乱暴のうちに入らないということだった。

 

「俺が助けてやる。金で言いなりにさせるなど男の風上にも置けないからな」

 

「アルベンス様」

 

「安心しろ。女を助けるのは男の役目だ」

 

「ありがとうございます」

 

これが虐げられた女を本当に助けるための言葉なら格好もつくが、セルラインに膝枕をしてもらいながらのことで何一つとして恰好がついていなかった。

 

今までならここで“魅力(チャーム)”を使っていたのだろうが、セルラインほどの美女にまともに相手をしてもらったことがないことで使うことを忘れていた。

 

「湯が用意されています。浴びられてはいかがです?」

 

「そうだな。背中を頼めるか?」

 

「はい」

 

魅力(チャーム)”なしで言うことを聞かせたことがないアルベンスはセルラインが本気で自分に惚れていると勘違いをしていた。

 

セルラインも“魅力(チャーム)”を易々と使わせる気はなかった。

 

「今夜こそはアルベンス様と一緒にいたいわ」

 

「俺も居たいが流石に逗留するほどの金は無いからな。また明日に踊りを見に来るよ」

 

「では約束ですね。お待ちしております」

 

気前よく泊まった分の金を支払いアルベンスは見送られて店を出た。

 

姿が見えなくなるとセルラインは踊り子の笑みを消して店の中に入った。

 

「疲れてるね、セルライン」

 

「ベネガ」

 

「あの男を標的にしている理由は知っているが小物だね」

 

「本当に、踊り子と娼婦を勘違いしているようで困るね」

 

アルベンスが後宮破壊ハーレム・クラッシャーという二つ名を持っていることとこの町に来た理由を探るという任務だと話している。

 

部外者に任務の内容を話すことはご法度だがベネガたちが外部に漏らすことはない。

 

踊り子として知った情報を漏らせば職を失い、引いては踊り子全体に迷惑がかかることを知っているからだ。

 

「こんな回りくどいことをしなくても他に手があっただろうに。私たちに迷惑がかからなければ良いけどね」

 

「それは分かってるよ。だから偽の店をでっち上げたのよ」

 

「それは分かってる。一晩で店を作るなんていう無茶なお強請りができるのはセルライン、あんただけだよ」


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