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踊り子は踊ることが仕事だとは理解しているが、明日に店でと約束をしておいて別の男といることにアルベンスは腹を立てていた。
本当なら乗り込んでセルラインを連れ出していただろうが、店の踊り子たちの雰囲気に飲まれて大人しくなっていた。
「そいつは常連なのか?」
「客のことを詮索するのは野暮というやつさ」
「いいじゃないか。教えろよ」
アルベンスを見下す言動を繰り返している踊り子のベネガはセルラインを除けば一番の年嵩だった。
だが容姿は衰えていないのが分かり、他の踊り子もベネガのことを諫めることはしない。
「強引な男は嫌いじゃないけどね。それは閨でのことさ。店での遊びを知らない男は願い下げさ」
「つれないな」
「だけど姐さんの客に冷たくしたとあれば名折れだ。上にいる御仁は身分の高い方だよ。セイレン姐さんを迎え入れることができるくらいに金もある。相手にしたら身上潰すよ。およし」
ベネガは親切から忠告しているように見えるが、これはセルラインからの指示だった。
詳しいことは何もないが、とにかくアルベンスが来たら焚き付けろということだけ言われていた。
引退をして軍に入っているセルラインから連絡が来たときには、一体、どんな男がセルラインを怒らせたのかと話題になったが、店に来たのはセルラインどころかベネガがいる店では相手すらしてもらえないほどの男だった。
「金ならあるさ。それに俺は金に物言わせる真似が大嫌いでね」
「あたしもこれ以上は言わないよ。男のプライドを見て見ぬふりするのも踊り子だからね」
「セイレンが来るまで酒でももらおう」
「それなら若い子たちをつけるよ。踊り子としては未熟だけど姐さんが見込んだ男だからね。安心だよ」
未熟といってもベネガたちと比べてのことで他の店なら問題ないくらいだった。
楽しそうにアルベンスの腕に掴まって二階の奥の部屋へ向かう。
その時にセルラインがいる部屋の前を通ることになり、中からは楽しそうな声が聞こえた。
「さすがですわ、このセイレンが負けるなど」
「さぁ次はどれを脱いでくれるのかな?」
「もう脱ぐものがありませんわ、ワルナー様」
会話だけで中で何が行われていたのか想像がついた。
歯噛みするが扉を開ける勇気が無いから黙って奥の部屋へ足を進めた。
※※※
廊下の足音が聞こえなくなってからセルラインは笑い声を上げた。
「ふふふ」
「楽しそうだな」
「ええ、とっても」
「まったく、俺を呼び寄せてサクラをさせるなど、お前でなくば打ち首ものだぞ」
階段を上がってくる足音に合わせて意味深長な会話をしただけだ。
セルラインは初めから相手をするつもりはない、焦らして、ようやく手に入れたと安心したときに探りを入れる。
「感謝していますわ、ワルナー様」
「他国の王族を呼びつけて演技をさせたんだ。それ相応の見返りは必要と思うが?」
「帯の結びが固くて一人で解けませんの。外してくださる?」
「いいだろう。こちらへ」
セルラインが踊り子として現役だった頃に一番の常連だった男だ。
独り身であり、王になる必要もないという身分を利用して他国を渡り歩いている。
「お前ほどの女がえらく小物を相手にするのだな」
「やきもちですか?仕事ですので安心してくださいな」
「俺の気持ちを知っているときから、踊り子のときから、セルライン。お前は他の男は仕事だと言っていたな」
「そうでしたわね」
「それに隊長の男にも一夜を強請っているそうではないか」
いろんな男と一夜を共にしたが、心から望んだのは目の前にいる男だけだ。
それをセルラインは一生、言うつもりはなかった。
「良い男ですもの」
「そんなお前に惚れた俺の負けなのだろうな」
「夜は長いですわよ」
現役で踊り子をしているときの客に本名を教えたのはワルナーだけだ。
そして貞操観念は低いが心まで明け渡したつもりはなかった。
「利用しろ」
「ワルナー様?」
「惚れた女が他の男に助けを求めることすら許容できない男だと笑ってくれていい」
「わたしが心を許すのはワルナー様だけですわ」
「どうだかな」
セルラインは自分の身分というものを嫌というほど理解している。
このままワルナーと共にいれば周りはワルナーを貶すということも分かっていたから一夜限りの関係を望んだ。
そしてワルナーのためにセルラインは踊り子を辞めた。
軍に入ることになったのは偶然だったが、それでもワルナーだけを望んでいても許される。
「ワルナー様には活躍していただきますわ」
「好きにしろ、セルライン」




