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カナリアから渡された路銀は普通に旅をするなら二か月は十分に持つがアルベンスは出費を抑えるという概念がなかった。

 

親が裕福ということはなかったが生まれた町の長の娘がアルベンスに入れ込んで貢いでいたから困ったことがない。

 

町長の娘は結婚するまでの遊びと割り切っていたし、その頃のアルベンスは“魅力(チャーム)”を使いこなしていなかったから自力で抜けることも可能だった。

 

「・・・・・・で、何で来ねぇんだよ。ちゃんと渡しただろうが」

 

一晩中、待っていたが受付嬢は宿に来なかった。

 

その理由は簡単で受付嬢は夜勤だったから宿に行くことができなかった。

 

「こんなことならセイレンとやれば良かった」

 

助けたということで安く遊べたはずだと皮算用をしていた。

 

セイレンと同じ踊り子がほかにもいたと考えると誘いに乗らなかったのは勿体無かったと後悔をしていた。

 

「はぁ飯でも食うか。この宿の飯はまずいんだよな」

 

町の中でも一番高級な宿に泊まっているが貴族のカナリアが用意していた食事を食べなれているアルベンスにとっては不味いと感じていた。

 

それでもここで食べているのは給仕している店員が美人だったからだ。

 

今のところは男に虐げられているという話は聞かないが連れて行こうと考えている。

 

「アルベンス、ずいぶんと寝坊ね」

 

「この宿の居心地が良いからな」

 

「もう褒めても何も無いわよ」

 

寝起きだと分かるアルベンスにコーヒーとサラダを用意し、自分も向かいの席に座る。

 

朝食を食べるには遅い時間だから客は誰もいない。

 

「イリーと食べるために遅くしてるのさ」

 

「もう、口だけは上手いんだから」

 

「口だけじゃないさ」

 

「それは知ってる、けど」

 

一緒にパンを食べながらイリーは頬を染めた。

 

まるで生娘のような反応だがアルベンスとは一夜を共にしている。

 

「それよりも!どうして昨日は呼んでくれなかったの?」

 

「悪い悪い」

 

「絶対に思ってない。待ってたのよ」

 

「ごめん。体だけの関係にはなりたくなかったからさ」

 

「アルベンス」

 

「イリー」

 

「お皿洗ったら休憩なの」

 

「うん、待ってる」

 

魅力(チャーム)”の威力を再確認したアルベンスは自信を回復させ、部屋でイリーを待った。

 

宿で働いているからイリーもアルベンスのような客のあしらい方は慣れているが“魅力(チャーム)”で虜になっていた。

 

朝に客を送り出すと夕方までは休憩となり自由時間だ。

 

そこを利用して二人は楽しんだ。

 

「・・・本当はだめなんだからね」

 

「分かってるよ。イリーの悪いようにはしないよ」

 

宿は泊まるためだけの施設であるから楽しみたいのなら娼館に行く必要があった。

 

イリーは女将に隠れて楽しんでいた。

 

知られてしまうことを恐れていたが杞憂となっていて女将もアルベンスの“魅力(チャーム)”で虜になっていた。

 

「それと聞きたいんだけど?」

 

「なぁに?」

 

「この町に弱いのに女を侍らせてる男がいるって聞いたけど知ってる?」

 

「女の人を侍らせてる男の人の話は聞いたことないわ」

 

「軍人だって聞いたけど」

 

「この町に軍人と言えば駐屯所にいる第三隊の皆さんよ。町の安全のためにいるのに弱いわけないわ」

 

もめ事が起きても動いているのは部下である隊員で隊長は後ろで指示をしているだけだ。

 

隊長としては正しいあり方だし、弱いと言ったのはカナリアだけで、それも嘘だ。

 

アルベンスは嘘だと知らないから信じているが、弱い軍人というものは存在することが難しい。

 

「そうか。ありがとう、イリー」

 

「お礼なら言葉じゃなくて」

 

「分かってるよ」

 

 

※※※

 

 

夕方になると路地裏では踊り子による客引きが始まる。

 

「お兄さん、こっちにどう?」

 

「遊ぼうよ」

 

わざとらしく誘うがアルベンスには目的の場所があったから応じることはなかった。

 

それにセイレンと比べてしまうとどの踊り子も霞んで見えていた。

 

「昨日はちゃんと見てなかったが普通の家だな」

 

セルラインが店だと案内をしたのはフィアットが用意している隠れ家だ。

 

急きょ、店としての体裁を整えだだけだ。

 

「お待ちしていましたわ。セイレン姐さんのお客様でしょう」

 

「へぇきれいだな」

 

「御冗談を。セイレン姐さんに怒られてしまうわ」

 

肌の露出を完全に抑えて見えているのは指先だけというほどの徹底ぶりだ。

 

「ここは店なのか?」

 

「さぁ?セイレン姐さんからは案内をするようにと言われているだけですもの。詳しく知りたいなら中へお入んなさい」

 

路地裏で客引きをしていた踊り子とは比べものにならないほどの手腕にアルベンスは冷や汗を流した。

 

実際に“スペル”で相手にしてきた女は全員が耐性のない者か男との駆け引きをしたことがない者ばかりだ。

 

また“スペル”に対しても警戒がないから簡単にかかる。

 

「あら?お客様?」

 

「セイレン姐さんのお客様よ」

 

「残念ね、姐さんに飽きたらいらっしゃいよ」

 

「そうさせてもらうよ」

 

粋がって返事をしたがソファに座って寛いでいる踊り子たちからは嘲笑が返ってきた。

 

セルラインほどの踊り子ではないが、全員が有名な踊り子で身請けしたいと名乗り出る男は両の手で余るくらいにはいる。

 

今回は呼ばれたから手を貸しているだけで、アルベンス程度の男を相手にすることはほとんどない。

 

「あぁでもセイレン姐さんは今、踊りの最中だからね」

 

「終わるまで、ここにいたほうが良いよ。あの方はセイレン姐さんに惚れ込んでいるからね」


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