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駐屯所の敷地に隣接する軍警備部隊の取り調べ室ではアルベンスが追及を受けていた。


たまたま出会ったユーリーンと休日に食事をして騒ぎを目撃したというだけのことで、ユーリーンを怒らせて平手打ちをされて飛んだというだけのことなのだが簡単に話は進んでいなかった。


「まず、どうしてあそこにいた?」


「俺がどこに居ようと関係ないだろう。ユーリーンとデートをしていたんだ」


「デートするようになったのはいつだ?」


「おととい?くらいに関所で会ったんだ。美人だから声くらいかけるだろう」


警備部隊にはユーリーンを好きな男が多いからアルベンスをよく思っていない者が多い。


申告書には二つの“スペル”が書かれているから、その点も警戒されていた。


何も“魅力(チャーム)”が異性にしか効果がないわけではない。


同性でも効果は十分に発揮される。


「で、関所で金貨一枚出したのはどうしてだ?」


「だから何度も言っているだろう。困っている彼女を助けるためだって言ってるだろう」


「見ず知らずの女に金貨一枚を差し出すほど裕福な身なりではないな。身分も平民のようだしな」


「これだから頭の固い軍人は困るんだ。見ず知らずでも何でも女が困っていたら助けるだろう」


これが本心からの言葉で本当に見ず知らずの女に金貨一枚を簡単に差し出せるのなら問題はなかった。


問題なのは騒ぎを最初に見た時にユーリーンの手を引いて離れようとしたことだ。


本当に見ず知らずの女でも困っているのなら助けるという言葉に嘘偽りがないなら離れるという選択肢はない。


「しかも所持金が平民が持ち歩くには多いだろう」


「さっきから平民、平民と馬鹿にしてくれてるけどな。別に盗んだ金じゃないからな。詮索される覚えはない!」


「馬鹿にはしてないさ」


「馬鹿にしてるね。だいたいユーリーンとのデートだって裏付けはユーリーンに聞けばいいだろう」


ユーリーンはデートとは一言も言っていないし、軍への報告も関所で知り合った旅の男にお礼を兼ねて食事をしたと言っている。


それをデートと取るかどうかは人それぞれだから追及するところではないが、警備部隊が知りたいのは、この町へ来た目的と職業だ。


犯罪組織の一員を見逃しては軍の沽券にかかわることだから必死にもなる。


「この町に来た理由は何だ?」


「さっきも言った。旅だよ、旅」


「旅に出られるほどの貯蓄はどうした?」


平民では旅に出るということがほとんどない。


新天地を目指して旅に出る人も多くいるが目的がはっきりしているから警備部隊も取り調べたりしない。


「俺の力になりたいというやつは多いんだよ。俺は今に有名になる男だからな」


「金のことはもういい。この町を選んだ理由は?だってそうだろう。見どころもない町よりも海沿いに行けば豊漁祭がもうじきあっただろう」


「旅だからって祭りを見に行かないといけないわけじゃないだろう。そこまで軍警に指図されるのは不愉快だ」


「分かった。今日はもう帰っていい」


「今日は?もう来るわけないだろう。だいたいユーリーンが俺のことを保証してくれる。確認してみろ」


アルベンスは取り調べの最初にもユーリーンを身元保証人として挙げていたが、当のユーリーンからは保証できないという返事が返って来ている。


魅力(チャーム)”の効果を信じているアルベンスはまだユーリーンが自分のことを好いていると思っていた。


だから警備部隊の取調室から出たらユーリーンが待っていると考えていた。


「あれ?ユーリーン?」


廊下を見渡してもユーリーンの姿はなく、警備隊員が忙しく歩いていた。


立ち止まったままのアルベンスに不信感を持つ者もいたが仕事を優先して通り過ぎる。


「飲み物でも買いに行ったのかな?ずいぶん待たせちゃったしな」


受付で飲み物を買える場所を聞くも案内所ではないと断られた。


アルベンス好みの美人ではないが“魅力(チャーム)”を使って話を続ける。


「ここは案内所じゃないんだからね?」


「分かってるって」


「警備所にはないの。外で買うしか」


「そっか。ありがとう。今度、食事にでも行こう」


「うん、待ってる」


簡単に“魅力(チャーム)”にかかりアルベンスに心を許していた。


小さな紙に泊まっている宿の名前を書いて受付嬢に渡す。


それをまんざらでもない様子で受け取った。


“スペル”を持たない者なら簡単にかかるほどにアルベンスの“魅力(チャーム)”は強力だった。


「さてと、ユーリーンを探すか」


魅力(チャーム)”の効力が下がったわけではないことを確認したアルベンスは今度こそユーリーンを完全に自分の物にしようと考えていた。


色々な店を回るがユーリーンを見つけることはおろか、姿を見たという話も聞かなかった。


ユーリーンが第三特務部隊所属の軍人だということを知っている町の人はアルベンスのことを怪しんで駐屯所に報告をしていた。


「ユーリーンはどこに行ったんだ?もうすぐ夕飯になるのに」


まだデートをしているつもりのアルベンスに忠告する者はいなかった。


仕事が終わって家路に着く人の流れから外れて路地裏を歩くアルベンスを後ろから付ける影が複数あった。


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