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「ハーレム作るとか砂漠の王族気取りとかやめて欲しい」
「アルベンスという男のことで分かってるの整理しない?」
「そうですね。今のところ確保できるほどのことをしていないだけで犯罪に手を染めるかもしれません」
精神作用を引き起こす“スペル”を使うことそのものは取り締まれないが、それを使って罪を犯せば立派に取り締まれる。
その可能性が高い者を監視するのも軍の役目だ。
「“ダブルスペル”持ちで、自己申告で“破壊”と“魅力”を持っているということですわね」
「ここから馬車で三日くらいのところに家を持っている」
「そこには男に傷つけられた女の人がたくさんいるということ」
「これが全て本当のことなら職業は何かしら?」
ヴィヴィが呟いた疑問は何よりも重要なことだった。
簡単に家を空けることができて、貴族の放蕩息子でもないなら限られてくる。
平民が大金を稼ぐことができる職業で時間に自由があるのは冒険者くらいのものだ。
「その条件に合うのは冒険者くらいだけど、強いようには見えなかったわ」
「でもユーリーンが門番と揉めたときに簡単に金貨を差し出したでしょ」
「裕福ではあるのよね?」
「家にいる女性たちに貢がせているとか?」
“魅力”を使えば可能なことだし、働かなくても生活には困らない。
倫理的なことを言えば褒められたことではないが、取り締まることはできない。
「それなら子爵家の坊やが言っていた気になることにも繋がる」
「確かにそうね。身分のある貴婦人の愛玩なら小遣いくらいは貰えるでしょうから」
「私に家と言ったのは安心させるためということね」
軍の記録に残っていないということは、それだけ用意周到に立ち回って女を集めていた証拠であり、何か問題が起きれば身分のある貴婦人が揉み消していたのだろう。
地方でのいざこざなら揉み消すのも簡単だろう。
それが平民同士のことなら無かったことにするくらいは朝飯前だ。
「何となく人物像が見えて来たけど、確保するほどの決め手には欠けるわね」
「今回のことでユーリーンを落とそうと躍起になるだろうけど向こうも警戒する」
「隊長、どうされますか?」
最後の一口を食べて、自分で口を拭いてから隊長は唸った。
軍としては警戒に値する人物であるのは間違いないが何か仕掛けられるほどのことは起きていないのが悩みの種だ。
「困ったね」
「ユーリーンを近づけるのは危険でしょうし」
「うん。こっちの手の内を探ろうとするだろうね。“魅力”を自力で抜ける方法を」
ユーリーンが同じ“ダブルスペル”持ちだったことと軍人であることから“スペル”にかからないよう訓練をしていた。
かかっても自力で抜く方法も軍人なら学ぶことになる。
「向こうの出方次第だけど、ユーリーン以外の隊員で様子を見よう」
「そうなると“魅力”にかかることができるのは、セルラインですね」
「潜入捜査中だけど帰って来てもらおう。代わりにマグドラに行ってもらえるよう手配して」
特務部隊というだけあり、犯罪組織への潜入捜査も秘密裏に行っている。
確実に組織を壊滅させるため軍との接触は皆無にするのが鉄則ではあるが定期的に入れ替えてはいた。
「かしこまりました」
「あとはアルベンスについて詳しいことを引き続き調べることにして通常任務に戻ろう」
「「「御意のままに」」」
※※※
廊下をヒールで音を立てながら疾走する女がいた。
服装は軍服ではなく、胸の大きさを強調する踊り子の衣装を着ている。
露出は過剰なくらい肌を見せて昼に着ている服装ではなかった。
「たいちょう~~~」
「うん?」
「寂しかったです」
「おかえり、セルライン」
「その冷たさも素敵」
机に向かってアイスクリームではなく書類を見ていた隊長は軽く受け流した。
セルライン・アンクルワー第五尉は旅の踊り子をしていたが容姿と話術を買われて軍に入った。
そのため言動は常に男を誘う物が多いが隊長がそれに靡いたこともないし、第三特務部隊は女しかいないから問題もおきない。
「セルライン」
「何ですか?ヴィヴィ副隊長」
「任務を変更します」
「隊長の護衛ですか?」
「ある男の目的を探っていただきます。相手は後宮破壊と呼ばれる男です。気を引き締めてかかりなさい」
後宮破壊という言葉にセルラインは反応した。
踊り子を辞めたと言っても現役時代に培った情報網は軍とは異なるものを持っている。
「ここで会えるとは思ってもみませんでした。心してかかります」
「何かあったのですか?セルライン」
「私は直接ではないですけど、仲間の踊り子が何人か一人の男に貢いでいると聞いています」
「詳しく話しなさい」
セルラインは軍に忠誠を誓っているわけではない。
踊り子という技術を活かせるから所属しているだけだ。
命令に従わないことも多いが、それを全員許している。