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男が何の目的で人質を取って騒いでいるのかは分からないが最悪の事態になる前に止めなければいけない。

 

ユーリーンが状況を見極めようとしたところにアルベンスが割って入った。

 

「ユーリーン、何してるんだよ。危ないだろ」

 

「・・・アルベンス」

 

ユーリーンの集中を壊すことに成功したアルベンスは腕を掴んで離れようとした。

 

その行動だけでユーリーンの中にあったアルベンスへの好意というものがきれいに無くなった。

 

「何を言っているの?私は軍人よ。助けるのが当たり前だわ。あなたに少しでも気を許した私が馬鹿だったわ」

 

「何を言って」

 

「この人でなし」

 

ユーリーンは加減することなくアルベンスを引っ叩いた。

 

吹っ飛んだアルベンスは女を人質にしていた男を巻き込んで倒れた。

 

飛んでくるアルベンスに驚いて拘束が緩くなった隙に女は逃げたため巻き込まれずに済んだ。

 

「ぐわっ」

 

「うっ」

 

男たちのうめき声で何をしたのか気づいたユーリーンは頭を抱えた。

 

痛みに立ち上がれないでいる内に通報によって駆け付けた軍人に確保されていた。

 

「あっ、ユーリーン」

 

「隊長」

 

「その服、可愛いよ」

 

「ありがとうございます」

 

現場の指示はヴィヴィがしており隊長は何もしていない。

 

それが第三特務部隊の在り方でユーリーンはそれに不満を持っているわけではなかった。

 

「ゆっ、ユーリーン」

 

「私、軍人なの。ごめんなさい」

 

「じょ上司に不満があるって言ったじゃないか」

 

ユーリーンが上司に不満を持っていたとしてもアルベンスを引っ叩いた理由とは繋がらない。

 

まだ“魅力(チャーム)”が効いていると思っているアルベンスはさらに続けようとした。

 

「そっ・・・・・・」

 

「ユーリーン!僕に不満があるの!それならどうして早く言ってくれないのさ」

 

隊長が遮って例のごとくボロボロと泣きながらユーリーンに抱き着いて叫ぶ。

 

子どもが駄々を捏ねているだけだが隊長は成人男性だ。

 

「隊長、不満などありませんよ」

 

「本当?」

 

「はい、私は隊長が大好きですよ」

 

「そっか、良かった」

 

軍服の袖で涙を拭くと満面の笑みを浮かべた。

 

それに納得していないのがアルベンスだ。

 

「言ってたじゃないか!ユーリーン」

 

「何を?」

 

「上司が“ダブルスペル”持ちでいけすかないって」

 

「私、上司が“ダブルスペル”持ちって一回も言ってないけど?」

 

「えっ?」

 

いくら“魅力(チャーム)”をかけられていても軍人としての規則までは忘れていない。

 

機密事項を簡単に話したりしない。

 

「調書取らせてもらうからね。ちょっとついて来てくれるかな?」

 

「俺はユーリーンと話してるんだ。俺は関係ないだろう」

 

「いやいやナイフ振り回した男にぶつかった経緯を聞かないといけないからね」

 

現場の整理のために一般軍人がアルベンスを連れて行こうとした。

 

アルベンスにとってはユーリーンを上司から助け出してハーレムに加えることしか頭にない。

 

「ユーリーン」

 

「私、女を見捨てる男が死ぬほど嫌いなの」

 

女が人質になっていた状況を見たアルベンスは助けようとすることもなく、ユーリーンの手を引いて離れようとした。

 

それでユーリーンの逆鱗に触れて平手打ちを食らい、吹っ飛ぶことになった。

 

「そんな・・・俺は」

 

「ほら歩け。行くぞ」

 

ユーリーンから嫌いだとしっかり宣告されたアルベンスは軍人二人に挟まれて連れて行かれた。

 

残っていた好意すら無くなりユーリーンは隊長の手を握ってヴィヴィの元へ向かった。

 

「ユーリーンが居てくれて良かったよ。そうじゃないと人質の女の子が殺されちゃってたかもしれないからね」

 

「偶然居合わせて良かったです」

 

「ヴィヴィ!ユーリーンが倒したんだよ」

 

「そうですね。遠目ですが見ていましたよ」

 

「すごいよね。僕もあれくらいできるかな?」

 

「隊長ならすぐにできますよ」

 

町の人は隊長が五歳児の背格好でも不思議には思っていない。

 

最初は奇異な目で見ていたが今はそれが普通となってしまった。

 

「よし!帰ったら特訓だよ。ユーリーン」

 

「はい!」

 

駐屯所に辿り着くと丁度おやつの時間になっていたから隊長は日課のアイスクリームを食べていた。

 

首には布を巻いて、口の周りをアイスクリームだらけにして食べる。

 

「ユーリーン、お疲れさまです」

 

「本当に疲れたわ。それに思っていた以上に下種だったわ」

 

「へぇ」

 

ユーリーンの額に触れて“魅力(チャーム)”の効果が残っていないかフィアットは調べる。

 

触れなくても見るだけで分かるが詳しいところは触れた方が精度が高かった。

 

「かかってないみたい」

 

「良かった。何か自分じゃないみたいな感覚があったから不安だったのよ」

 

「それは“魅力(チャーム)”のせいじゃないと思う」

 

「そうなの?それよりアルベンスはここから馬車で三日くらい離れたところに家があるみたいよ?そこに女を侍らせているって自慢してたわ」

 

目的の一部は達成できたからユーリーンが“魅力(チャーム)”にかかったことは意味があった。

 

これで“魅力(チャーム)”を使って女を集めていることは確認できるが、それを罪に問えるかと言われれば無理だ。

 

“スペル”使用による立件は法律的にも難しかった。


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