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休暇での待ち合わせだから軍服であるのは不自然だから私服にしたが、穿き慣れないスカートだから落ち着かなかった。

 

これが太ももに武器でも仕込めたら落ち着いたのかもしれないが、デートにナイフを持って行く女はまずいない。

 

「本当に憂鬱だわ」

 

ベンチに座って待っているが約束の時間になってもアルベンスは現れない。

 

こういうときは男が先に待っていて、遅れた女に優しい言葉をかけるのではないかと夢を見ていた部分もあった。

 

「ごめん、待たせたね」

 

「遅い」

 

「ユーリーンに似合う花を選んでいたら遅くなったよ。一時間は早く家を出たのに失敗だったな」

 

下から覗き込まれるようにして謝られて一輪の花を差し出されて気分が高揚するのをユーリーンは自覚した。

 

ゆっくりと獲物を仕留めるように“魅力(チャーム)”をかけられていくのだろう。

 

それに逆らわずに受け入れる。

 

「仕事のときは気を張っていたんだね。今は穏やかな顔をしているよ」

 

「そうかしら?」

 

「うん。今のユーリーンの顔の方が好きだな」

 

「ありがとう」

 

手を握られてユーリーンは引っ張られた。

 

「あっちに面白い出し物を見つけたんだ。行こう」

 

「うん」

 

「それとお昼ご飯はユーリーンのおすすめの店を教えてよ」

 

女との会話に慣れているアルベンスは無邪気な様子を見せながらユーリーンを巧みに誘導した。

 

目が合うたびに“魅力(チャーム)”をかけられているのが分かるが逆らわずにいるから頭痛に悩まされずに済んでいた。

 

昼ご飯では個室になるとアルベンスはユーリーンの悩みというものをさらに聞き出そうとした。

 

「そう言えば、上司の人と上手く言ってる?」

 

「えっ?」

 

「いや、最初に会ったときに言ってただろ?だからさ気になって。ユーリーンみたいな人が悲しんでるのは嫌だからさ」

 

「ありがとう。でも大丈夫よ。理不尽なことを言われているわけじゃないし」

 

「でも悩んでいるんだろ?」

 

言葉の選び方が天才的であるアルベンスの返しに否定しきることができずにユーリーンは頷いてしまった。

 

魅力(チャーム)”を受け入れるとアルベンスが頼りになると思えてくる。

 

「話、聞くよ」

 

「ありがとう」

 

「ユーリーンは笑っているほうが良いよ」

 

特別なことを言われているわけではないのにアルベンスに傾倒していくのを実感していた。

 

その言葉が“魅力(チャーム)”の効果を上げるためだと知らなければ恋に落ちていただろう。

 

それくらい見事な手際だった。

 

「軍人を選んだくらいだから認めて欲しいって思うの。だけど上司が一番頼りにしているのは副隊長なのよ。それは分かっているけど」

 

「そっか」

 

「私が入れる隙間も無いっていうのが、ね」

 

「ユーリーンは頑張ってるよ」

 

アルベンスはユーリーンの頭を軽く撫でた。

 

「アルベンス」

 

「ユーリーンが軍人として頑張ってるのは知ってるよ。だから気にすることないよ」

 

「うん」

 

アルベンスは具体的なことは言っていない。

 

勝手に言葉の裏を期待しているのは受け取った女の方だ。

 

言葉の選び方が上手いことでユーリーンは目的を掴めないでいた。

 

「・・・アルベンスは旅をしているのでしょう?」

 

「うん」

 

「また、いなくなっちゃうのね」

 

「心配しなくても良いよ。ここから馬車で三日ほどの町に家がある。そこには男に傷つけられた女たちが住んでいる。ユーリーンもきっと癒されるよ」

 

「きっとね」

 

アルベンスに引き寄せられて抱きしめられた。

 

昨日までは“魅力(チャーム)”にかかっている感じはなかったが今は確実に“魅力(チャーム)”にかかっていると確信しているアルベンスはそのまま娼館に連れて行こうと考えていた。

 

「そろそろ店が閉まるから出ようか」

 

「そうね」

 

これ以上、一緒にいれば取返しのつかないところまで堕ちると分かっているからユーリーンは離れるための口実を考えていた。

 

二人が違うことを考えて店を出ると乱闘騒ぎが起きていた。

 

「騒がしいね」

 

「そうね」

 

「関わると碌なことがないよ。行こう」

 

「でも、待って」

 

人込みの隙間から見えたのは男が誰かを人質にしている姿だった。

 

いくら休みでも見て見ぬフリはできない状況だった。

 

「助けないと」

 

「助けるって」

 

「私は軍人だもの」

 

「ユーリーンがする必要はないよ。今日は休みなんだろ?」

 

「私は軍人として上司に認められたいの」

 

引き留めているアルベンスの手を振り解き人込みを掻き分けて先頭に向かう。

 

まだユーリーンを連れ込むことを諦めていないアルベンスは後を追った。

 

「何をしているの!」

 

「あぁ?女が何言ってやがる。これが見えねぇのか?あぁ?」

 

「その人を離しなさい」

 

男が連れているのは飲食店の店員の女だった。

 

腕で首を固定してナイフで脅している。

 

周りも助けたくてもナイフがあって動けなかった。

 

「このナイフが見えないのか!黙れ、女」

 

「刺すなら刺しなさいよ。それよりも早く私は動くわよ」

 

「ひぃ」

 

「はっ!人質を脅えさして、どうすんだ?女」

 

ユーリーンにとってナイフが人質となった女に届くよりも早く動くのは問題ない。

 

問題は動くきっかけだった。


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