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「くっくそぉーーー」


「ふん」


さして大きくもない町の広場で叫んでいる男は地面に蹲ってしまった。


それを見物している町人たちも面白がっている者もいれば、悲壮な表情をしている者もいる。


状況を知らない者でも見れば分かるのは、二人の男が一人の女を取り合って勝った方が女を手にできるという決闘だったということだ。


女の腰をこれ見よがしに抱き寄せ、健康的に焼けた頬に口づけをした。


周りからは囃し立てる声が上がるが、それに女も気を悪くした様子もなく、大きな胸を男に押し付けて応える。


「負けたお前が悪い」


「私強い人が好きなの」


戦いに負けた相手に対して礼儀もなく鞭打つ言葉を躊躇いもなく言い、男女は人込みに向かって歩いた。


何も言わなくても人が避けて道ができた。


姿が見えなくなると人々は日常に戻っていく。


ただ一人、負けた男だけは広場の真ん中で蹲ったまま動かないが、誰も気にしない。


勝者の男と戦利品の女は町外れの大きな屋敷に入っていった。


「ここがこれから住む家だ。他の女もいるが仲良くしてくれ」


「もちろんよ」


「帰ったぞ」


「わぁお帰りなさい!」


「聞きましたよ、また勝ったようですね。マスターには神の加護がありますようですね」


中からは動きやすさを重視して服は最低限のもので、腰には幼い顔には似合わないナイフを五本ぶら下げた女と幼女と見間違うほど背が小さい耳の尖った女の二人が出てきた。


「新しい人ですね?」


「あぁ俺より弱いやつに恋人にされていたからな。勝ってもらってきた」


「うわわぁ人助けですね。さすがご主人ですぅ」


新しい女が来たというのに警戒することもなく受け入れている。


連れて来られた女もだが男を見る目には羨望が混じっていた。


「カナリアはいるか?」


「カナリアさんはサロンで本を読んでいますよ」


「そうか」


屋敷は貴族の別荘のような感じだが中にいるのはメイドのような感じでもない。


冒険者のような女や修道院にいる女や魔術師のような女まで多岐に渡る。


新しく連れて来られた女は町娘のような感じでエプロンを付けているからどこかの店の給仕をしているのだろう。


「カナリア」


「ご健勝のこととお喜び申し上げますわ」


「こいつはマリアだ。世話を頼む」


「よろしゅうございます。それよりも今夜はどの娘を選ばれますの?一人寝は寂しいですわ」


「安心しろ。しばらくは家にいる。順番に可愛がってやる」


カナリアという女は、この中でなら一番年上であるがコルセットで腰を絞めて胸はドレスの谷間から溢れそうになるくらいの大きさを持つ。


扇子で口元を隠しながら言う様は貴婦人そのものだった。


「格下とはいえ戦いをされて、さぞお疲れでございましょう。湯を用意してございます。先にお入りになってはいかが?」


「そうするか。マリア、あとでな」


「はい!」


ここにいる女は全員が男に惚れこんでいるが、一人で寵愛を受けようとはしていない。


それを当然だと思い、男に尽くすことが全てだと思っていた。


「マリア、ここでの過ごし方をお話ししますわ」


「は、はい」


「そう固くならなくてもよくてよ。この屋敷にいる間は寵を等しく受ける者として平等なのだから。選ぶのはあくまでも旦那様よ。旦那様が好まないことはしてはいけないのが決まり」


「も、もちろんです。私は弱い男から助けていただきました」


マリアの答えを聞いて大きく頷き、笑みを浮かべた。


「旦那様が望まれたときは応じること。それ以外は自由よ。そのまま働いてもよし、新しい働き口が欲しいなら、わたくしが口利きをして差し上げます」


「図々しいのですが、お願いします。前のところの常連が恋人だったので、顔を合わせたくないといいますか」


「それは当然ね。あとで紹介状を用意します。それを持って好きなところで働きなさい」


「ありがとうございます」


「礼には及びませんよ。旦那様から世話を任されたのですから礼は旦那様からいただきますわ」


屋敷にいるのは男に惚れ込んだ女たちが集まっていた。


つまりはハーレムができていた。


「いい湯だった」


「旦那様」


「どうした?カナリア」


「あらぬ噂を耳にしましたの」


貴族であるカナリアには軍に所属する夫がいる。


既婚者ではあったが別荘にいる間の遊びとして子どもができなければ良いと黙認されている。


カナリアの夫も愛人を囲っていたりするから似た者夫婦だった。


この屋敷もカナリアの夫の持ち物のひとつだが領地に滞在する間は好きに使用していた。


「あらぬ噂?どんなものだ?」


「軍には特に強い訳でもないのに多くの女性を侍らしている殿方がいるそうですわ」


「それは許しがたいことだな。俺が助けてやらないといけないな」


不当な扱いを受けている女を助けるという名目で自分の周りに侍らすことを至上の目的にしている男は今日連れて来た女のことなど忘れたように次の女のことを考えていた。


その笑みは見ていて楽しいものではないが、男に心酔している女はしな垂れかかり甘える仕草をするだけに留めた。


「カナリア、もっと情報を集めておいてくれ」


「よろしゅうございますわ、旦那様」


「まずは俺が連れて来たからな。マリア、行くぞ」


男はマリアの腰を抱いてサロンを出た。


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