表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

才ころ

「しかしねえ……君、本当かね? 【最適な仕事】をやめるというのは」

「はい、辞めさせていただきます」


「それはできないよ」

「いいえ、辞めさせていただきます」


「私がそうはさせないよ」

「では、勝手にここを出て行きます」


「【最適な仕事】というものはね。絶対なんだよ。他の全員と同じように、君が生まれた瞬間にコンピュータが君の才能を分析して、それに基づいて君にとっての【最適な仕事】が最適に決まっているのだよ」

「子どもの頃から散々聞かされています」


「【最適な仕事】が嫌いになったのかい?」

「いいえ、他の皆と同じように大好きです」


「では、何故辞めるんだね?」

「自分の仕事に満足できなくなりました」


「正気かね!? 私は君を許さないぞ。君にとって適正の無い仕事を始めることになるのだぞ!」

「一向に構いません。それができれば、それだけで私は満足です」


「………………」

「それでは私はこれでお暇します」









「ああ……どうしよう……、もう全てがおしまいだ。彼が【最適な仕事】を辞める事で才能の無い“誰か”が彼の分を仕事をやることになる。そうなるとその“誰か”の【最適な仕事】の席が空いてしまう! それを繰り返してみろ! 全員が【最適な仕事】をできなくなってしまう! 皆、不幸になってしまう……」

「出て行った彼が秩序を乱すというのならば、撃ち殺してしまうというのはどうでしょうか?」


「駄目だ駄目だ! 【撃ち殺す仕事の人】と【撃ち殺される仕事の人】は皆と同じように産まれたときから既に全て決まっているんだ! それに彼が死んだらいよいよもって誰が彼の【最適な仕事】をやるというのだ!」

「【緊急事態を収める仕事の人】はいないのですか!?」




「それは――――――私だよ……」


【緊急事態を収める仕事の人】はもう声が出なかった。

出て行った男の選択によって直に、直に滅びがやってくる――逃れられぬ破滅が。






男が古びた倉庫の扉を開ける。

その中央に座り込み、地面に置いてあったソレをゆっくりと掲げた。









――達磨だった。




墨を刷り、筆を取り出し、息を大きく吸い込み可能な限り丁寧に達磨に目を入れた。

男が描いた右目は立派に描かれた左目よりも少しだけ小さく、不恰好だった。



男は一言だけ

「ああ――よかった。初めてできた」

と、満足そうに呟いた。









倉庫の窓から、穏やかな夕日が差し込んでいる。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ