鬼ごっこ
「見つかってしまいましたわ!?」
すくみ上がるジャネット。
しかも相手は、ナヴィラの里を襲撃した戦士の中でも特に強そうなバルフである。襲撃の際も他の兵士たちに命令を下していたから、ガデル族のリーダー的な立場にあるだろうということは少女たちにも分かる。
「何者かと、訊いてる。答えによっては女子供でも容赦はしねえ」
バルフが問いを繰り返した。
彼が手に持った斧の凶暴な輝きに、フェリスが跳び上がる。
「え、えとっ、フェリスです! バステナ王立魔法学校ミドルクラス生ですっ! 好きなものはしゅーくりーむとアリシアさんとジャネットさんです!」
「律儀に自己紹介を……?」
驚くアリシア。
「わ、わたくしが好きなものだなんて……今日は人生最良の日ですわ!」
てれてれと赤い頬を押さえるジャネット。
バルフは力強い眉を上げた。
「バステナ……? その年で魔術師団の増援として来たっていうのか。ガキを戦場に叩き込むなんざ、戦士の風上にも置けんな」
「くっ……」
バルフから睨み据えられ、ミランダ隊長は奥歯を噛む。敵から正論を突きつけられるのは苦しいものがある。
フェリスは慌てて手を振った。
「ち、違います! 戦いに来たんじゃありません!」
「じゃあ、なにしに来た。どんな術を使ったか分からんが、結界も破りやがって……」
「勝手に入ったのはごめんなさい! でも、アリシアさんのお父さんを返してほしいんです! ロバートさんって人なんですけど、ここに捕まってるはずなんです!」
「ロバート……?」
怪訝そうなバルフ。
「せ、先代の魔術師団長ですわ! 紛争解決のため、魔術師団を率いてこの辺りに来ていたんですの!」
「魔術師団長なんて知らんな。確かに俺たちの聖戦にくちばしを突っ込んで来たから戦っていたが、いつの間にか大人しくなっていた。帰ったモンだと思っていたが?」
「え……?」
バルフの言葉に、ミランダ隊長が目を見張る。
「嘘ですわ! こちらにはすべてお見通しなんですから、隠し立てしても無駄! さっさと返してくださいましっ! さ、さもなければ、このわたくしが許しませんわっ!」
ジャネットが杖を握り締める手は、恐怖に震えている。それでも彼女はバルフを毅然と睨みつけ、一歩も退こうとしない。
「ジャネット……」
自分のために勇気を振り絞ってくれている少女の姿に、アリシアが胸元をきゅっと握る。
「とにかく、俺たちの村を突き止めて忍び込んだお前たちをこのまま帰すわけにはいかねえ」
バルフが斧を振り上げて向かってくる。
「て、撤退しますよ!」
ミランダ隊長が叫び、少女たちは無我夢中で建物の外に飛び出した。
既に村では、ガデル族とナヴィラ族の戦士の激突が始まっていた。敵に発見されたのはフェリスたちだけではなかったらしい。
混乱と怒号の中を、少女たちは必死に村の外を目指して駆ける。
そのとき、フェリスは前方に見覚えのある男性の姿を目撃した。
ロバートである。服が焼け焦げ、やつれきった様子で手枷をつけられているものの、ふらふらと歩いて逃げようとしている。
「ロバートさん!」
「お父様!」
「いましたわ!!」
「ロバート閣下!」
フェリスはロバートに駆け寄るが、なかなか追いつけない。ロバートは頼りない足取りで、谷の外へと向かっていく。
そして、ロバートを追いかけるフェリスは気付かなかった。
他の三人が、まったく違う方向へと走っていることに。




