影の都
一方、フェリス、アリシア、ジャネット、ロゼッタ姫の四人は、見たこともない場所で立ち尽くしていた。
「ええと……ここ、どこでしょう……?」
「どこかしらねえ……」
呆然とする少女たち。
それは、広々とした薄闇の空間だった。あちこちに円形の薄っぺらい広場が存在しており、広場と広場のあいだを長い階段が繋いでいる。
広場の地面はなめらかな石材で造られているのか、ぼんやりとフェリスたちの姿を反射していた。周囲の空間には、黒い風のようなものがゆっくりと舞っている。
「と、とりあえず、元の場所に帰りましょう! わたくしたち、門から入ってきたはずですわ!」
「その門が見当たらないのですが……わたくしの気のせいでしょうか?」
王女の言う通りだった。
少女たちの背後にあったはずの門はなく、少女たちを呼んだはずの校長もいない。ロッテ先生もいない。
アリシアが口元に指を添える。
「私たち……まんまと誘い込まれたみたいね」
「ふえ!? 黒雨の魔女さんにですか!?」
「ええ。先生たちと一緒にいると面倒だから、引き剥がしたんじゃないかしら。ここが黒雨の魔女が創った舞台なら……戦いも向こうの有利になるだろうし」
「ど、どうしますのーっ!?」
フェリスとジャネットは震え上がる。
ロゼッタ姫も緊張気味に辺りを見回していたが、やがて努めて静かな声で言った。
「とりあえず……王都の行方を捜しませんか? 校長先生は、王都はここにあるとおっしゃっていましたし……ひょっとしたら」
「この空間に王都が隠されているかもしれない、ということですね」
「はい」
アリシアとロゼッタ姫がうなずき合う。
「お、お父様とお母様もここに捕まっているのなら、捜すしかありませんわ! しゅ、出発しんこーですわっ!!」
「ふぁいとーですーっ!!」
無理やりに勇気を奮い起こして歩き始める少女たち。じっとしていたら自分たちまで奇妙な異空間に取り込まれそうで、とにかく行動せずにはいられない。
しばらく階段を上ったり降りたりしていると、これまでとは違う広場に行き当たった。単なる平坦な足場ではなく、地面から不思議な水のようなものが幾重もの線となって浮かび上がっていたのだ。
他の広場とは違って、どことなく清浄な空気に満たされた場所。その中央にはクリスタルの台座があり、上に美しいスフィアが浮かんでいる。
「なんでしょう……これ……」
フェリスはスフィアの碧い光に顔を照らされながらささやいた。大きな声を出したらすぐにスフィアが壊れてしまいそうな、そんな脆くて尊いオーラがあった。
「かなりの魔力が……このスフィアから周りに流れているわね。もしかしたら、異空間を創ってるのはスフィアの魔力なのかも……?」
「じゃ、じゃあっ、これをなんとかしたら王都を元に戻せるんですね!?」
「なんとかって、どうするのです?」
「フェリス!? うかつに触ったら危ないですわ!?」
ジャネットの制止も間に合わず。
フェリスがスフィアに手を伸ばすと、スフィアから衝撃波が爆発した。
閃光がフェリスの脳裏を焼き、それから白黒の空間が辺りを占領する。
「あ、あれ……? アリシアさん? ジャネットさん? ロゼッタさん!? どこ行ったんですか!?」
フェリスは周囲を見回すが、友人たちの姿はない。
そして少し離れたところに、小さな民家が見えた。
そこに立っているのは……黒雨の魔女。だが、こちらには気付いていない。視線を向けようともしない。服装も以前とはまったく違い、素朴な村娘のような衣装を身につけている。
魔女は腕に見知らぬ少女を抱え、ぽろぽろと涙を落としていた。
黒い、雨のような涙を。
次回はいつもより前倒しして、11/30(木)に更新させて頂きます!




