王都からの知らせ
「フェリスちゃん! まさかとは思うけど、お部屋にお姫様を連れ込んだりしてないよね!?」
寮の部屋に入ってくるなり、ロッテ先生は直球で尋ねた。
「え、えとっ、そのっ……ふわわわわ……」
見るからに挙動不審で震えるフェリス。その隣、ベッドの上には、毛布の塊がわさわさと揺れている。明らかになにかいる。
「そ、それよりせんせぇ! 魔術史の教科書の52ページに、よく分からない部分があったんですけど!」
「話をそらさない! ホントにごまかすの下手だね、フェリスちゃんは……」
「ご、ごめんなさい! でもダメなんです! 開けちゃダメですー!」
「えい」
フェリスは涙目で毛布の塊の前で両腕を広げるが、ロッテ先生は容赦なく毛布を引っぺがした。
「……あら。見つかってしまいました」
毛布の下から現れたのは、特に悪びれた様子もなくきょとんとするロゼッタ姫。
「殿下ー!! なにしていらっしゃるんですかー!!」
叫ぶロッテ先生。
「かくれんぼ、でしょうか?」
ロゼッタ姫は小首を傾げた。
「王宮からは一切連絡がないんですが、殿下お一人でこっそり来られたとかじゃありませんよね……?」
「大丈夫です」
「大丈夫じゃないですよ! 殿下が怪我でもしたら大騒ぎですよ!?」
「志半ばで倒れるのも……覚悟の上です」
「万が一倒れてしまわれたら、魔法学校ごとお取り潰しとかあり得ますから!」
「そのときは魔法学校に責が及ばないように『だいいんぐめっせーじ』を残します……『魔法学校を許してあげてください』と」
「それは確実に魔法学校のせいだと思われるのでは……!? 」
言い合う二人を、フェリスはおろおろして見比べる。
ロッテ先生はため息をついた。
「とりあえず……、王宮に黙っておくわけにはいきませんから、報告させていただきます。それまでは魔法学校の外に出ないようにしてくださると助かります……校内なら安全ですから」
「つまり、王宮から迎えが来るまでは、堂々と魔法学校を満喫できるということですね?」
微笑むロゼッタ姫。
「噂には聞いていましたが、殿下って本当にやんちゃなんですね……」
ロッテ先生は呆れたように言った。
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「……というわけで、装身具に魔術を込めることで、魔力の弱い一般人にも魔術を使うことができるようになる。ただし、そういう装身具は高価なものになりやすいから、一般人の手が簡単に届くわけではないがね」
特別教室の教壇で、生活魔術の先生が語っている。だが普段とは違って先生の声は震え気味で、ちらちらとフェリスの隣に視線をやっている。
フェリスの隣でにこにこしているのは、ロゼッタ姫だ。王宮からの使者が到着するまでのあいだ、フェリスと一緒に授業に参加することになったのだ。
ロッテ先生からロゼッタ姫の侵入を報告されたときの校長は『姫……? 他人の空似ではないかの? 報告とか要らんのじゃないかの?』などと肩をすくめていたが。
「では、今日は実際に自分の好きなアクセサリーを作って、魔術を込める実習をしてみよう。分からないところがあったら先生を呼ぶように」
先生が告げると、特別教室が賑やかになる。
生活魔術の授業の中でも、アクセサリー作りは皆が楽しみにしていた時間。とりわけ女子生徒たちは、こだわりまくって半月前から素材を集めていた者もいるくらいなのだ。
ロゼッタ姫は材料のセットを眺めてうなずくと、フェリスを見やった。
「フェリス。もしよろしければ、わたくしとお揃いのアクセサリーを作りませんか? せっかく魔法学校に来たのですし、思い出になる品がほしいです」
「はい! じゃあっ、わたしは防御魔術と感知魔術を込めた腕輪を作ってプレゼントしますね。もしロゼッタさんが危ない目に遭ったら、ロゼッタさんを守ってくれるように」
「嬉しいです。わたくしは魔術は込められませんが、しっかり心は込めますから」
微笑み合う二人に、ジャネットがたまらず口を挟む。
「わ、わたくしもフェリスとお揃いがいいですわ!」
「だったら、四人でお揃いのアクセサリーを作らない?」
アリシアも参加し、わいわいと作業を進める。
そんなとき、特別教室に真っ青な顔でロッテ先生が走り込んできた。ロッテ先生から耳打ちされた生活魔術の先生は、同じように顔を青ざめさせる。
「……? どうしたのかしら?」
訝るアリシア。
ロッテ先生が生徒たちのあいだを抜けて、ロゼッタ姫の方へと近づいてくる。声を潜め、フェリスたちにもぎりぎり聞こえるか聞こえないか程度でささやく。
「……殿下。ちょっと校長室に来ていただけますか」
「王宮から使いが着いたのですか……?」
がっかりするロゼッタ姫。
しかし、ロッテ先生は首を振って。
「使いは来ていません……来られません。王都が……行方不明になってしまいましたから」




