大地の恵み
フェリスたちがいちご狩り(?)を楽しんだ農園に、周辺の農民たちが集まっている。
農民たちの前で事件の経緯を説明しているのは、アリシアだ。
「……というわけで、この辺の土地から魔力を吸い上げてたカースドアイテムは呪いを解かれたから、もういちごが飛んだり作物が育ちにくくなったりすることはないはずよ……ね、フェリス?」
「は、はい……」
フェリスはアリシアの後ろから怖々と顔を出してうなずいた。
「もう、どうしてフェリスが後ろに隠れているんですの? 事件を解決したのはフェリスなんですから、もっと堂々としてないといけませんわ」
ジャネットが呆れる。
「う、うぅ……しゅみません……」
そう言われても、フェリスは大勢の前で説明をするなんて苦手なのだ。ちゃんと説明できるか自信がないし、大人たちに囲まれるのは恐ろしい。
「べ、別に謝らなくていいですけれど……これはフェリスのお手柄なんですのよ?」
「そうね。フェリスがいなかったら、もっと大変なことになっていたかもしれないわ」
「そ、そんなこと、ないですけど……」
アリシアはフェリスを両腕で守るようにして、自分の前に連れ出す。農民たちの視線が集まってフェリスは緊張するが、アリシアに抱き締められている状態なら少しはマシだった。
「土地に元通り魔力が戻るのは時間がかかるだろうけど……、次の季節にはちゃんと作物が収穫できるようになっているはずよ」
アリシアが告げると、農民たちは顔を見合わせた。
「次の季節、か……」「まあ、耐えるしかあるめえ」「父ちゃんが出稼ぎに出て、子供を奉公に出せば、なんとか……」「ワシらはじいっと土の中に隠れて、やり過ごすだけよ……」
事件が解決したとはいえ、今回の作物は期待できない。その事実が重くのしかかっていて、農民たちは素直に喜べなかった。フェリスに対する感謝はもちろんあるのだけれど、それ以上に今後の生活が暗澹たるものに見えて仕方ないのだ。
「父ちゃん……ウチら、飢え死にしてまうん?」
「いや……大丈夫さ。大丈夫だぁよ」
子供に服の裾を引っ張られ、農家の男が首を振る。だが、彼自身も未来への希望を取り戻すことができていない。
そんな様子を見ていると、フェリスは小さな胸を締めつけられるのを感じた。
「あ、あのっ!」
たまらず、大声で農民たちに話しかけてしまう。
農民たちがきょとんとして注目する中、緊張に声を上ずらせながら告げる。
「わ、わたしっ、すぐ畑に魔力を戻せないかと思ってっ、調べたんですっ! 別荘に置いてあったレティシアさんの参考書を読んでっ、そしたら、カースドアイテムがやったのと逆のことをしたら魔力を戻せるかもしれないって分かったんですっ!」
「どういうことだい?」
腰の曲がったおばあさんが首を傾げた。
「えっとですねっ、この辺りに魔法陣を描いて、大っきな儀式をやるんですっ! カースドアイテムが持っていっちゃった魔力を、その魔法陣に引っ張って、上手く散らばらせられたらっ、土地に魔力が戻ると思うんですっ!」
フェリスは別荘から持ってきた魔法の杖を使って、地面に線を引き始めた。小さなカラダで杖を引きずるのは大変で、うんうん唸りながら頑張る姿は見ている方が心配になってくる。
アリシアとジャネットもフェリスに協力し、周辺一帯の農地のあいだに巨大な魔法陣を描いた。
農民たちはどう手伝ったらいいのかも分からず、ただぼんやりと少女たちの様子を眺めている。
汗だくになりながら魔法陣を描き終えると、フェリスは魔法陣の真ん中に立った。
胸の前で手を組み、祈るようにして複合魔術――自ら編み出した言霊を唱える。
「マナよ、命よ、大地の恵みよ……降り注ぐ水と、燃え盛る炎の息吹よ……我らが力となりて、この地に祝福を!!」
辺りに眩い光が満ちた。
地面が、草木が、空気の粒子までもが輝き、そして力を取り戻していく。
フェリスの小柄な体が神々しい光に包まれ、その瞳が金色の光輝を放つ。
それはまるで神々の降臨、奇跡の顕現のような光景で。
「な、なんじゃーーーーーーーーー!?」
農民たちは腰を抜かして驚愕する。
光り輝くフェリスの周りで、作物の種が一斉に芽吹き始めた。
恐ろしい勢いで茎が伸び、葉が開き、ツルが生長し、花が咲き誇って、たわわな実をつけていく。
あらゆる季節の果実が生まれ、芳醇な香気を放って生い茂る。
あっという間に、そこは不毛の土地から理想郷の庭園へと変貌してしまっていた。
「……ふあっ。魔力をこの辺りの土地に戻して、あと、これまで作物が育ったなかった分、ちょっとだけお手伝いもさせてもらいました」
周囲の光が薄れ、金色に光っていた瞳も元に戻って、フェリスは軽く吐息をつく。
農民たちは呼吸をするのも忘れて、ただ唖然とフェリスを凝視している。
その反応を見て、フェリスは慌てた。
「あ、ご、ごめんなさい……! 余計なことしちゃいましたか!? すぐ元に戻しますから!」
そう言って、作物を枯らすための言霊を一生懸命考え始めるが。
「嬢ちゃああああああああああああんっ!!」
「ひゃーーーーーーーーーーーーーーー!?」
物凄い勢いで押し寄せてきた農民たちに囲まれ、圧死しそうになった。
「魔術師の嬢ちゃん! アンタは天使様だよ! いや神様だ!」「ありがとう……ありがとう……! お陰でワシらは身を売らなくて済む!」「いいや、小作料もちゃんと払えるぞ、これなら!」「アンタのお陰だ!」
「ふえええええええええ!!」
口々に感謝を叫ぶ農民たちから揉みくちゃにされるフェリス。
「フェリスには指一本触れさせませんわあああむぎゅっ!」
助けに入ろうとしたジャネットまで押し潰され。
「困ったわね……」
アリシアは途方に暮れて様子を見守っていた。
そして、翌日。
フェリスとアリシア、そしてジャネットの三人は、農民たちに招かれてティーパーティを楽しんでいた。
デザートのメニューは、もちろん、フェリスがとてつもない魔法で急成長させたフルーツの数々である。それを農民たちが伝統のお菓子やパフェ、タルトやケーキなどにこしらえ、フェリスたちをお礼に招いたのだ。
「ん~~~~~~~~~~っ!」
ベリーのタルトを頬張り、その美味しさに身悶えするフェリス。
「素晴らしいわね……」
うっとりとキウイのケーキに舌鼓を打つアリシア。
「なんて名前のお菓子なのですかしら……是非作り方を教えてもらいたいですわ……」
よく分からないジャム状の物体をスプーンで舐めているジャネット。
三人共が大満足のクオリティである。
「そろそろお休みも終わるけど……、どうだった? こっちの別荘での休暇は?」
アリシアが尋ねる。
「すっごく楽しかったです! 毎日がわくわくでした! でも学校も楽しみですっ!!」
フェリスは天使の笑顔を広げる。
「ま、まあ、悪くはありませんでしたわ。フェリスとずっと一緒にいられましたし……次のお休みも付き合ってさしあげてもよくってよ?」
ジャネットは恥ずかしそうに目をそらしてつぶやく。
「ただ、ちょっと気になることもあるわね……」
「ふえ? なんですか?」
「カースドアイテムのことよ。絵本といい、樽といい、誰かがカースドアイテムを作ってまわってるみたいじゃない? そそのかすというか……」
「あ……そういえば、そうです……」
「誰なのですかしら……そんなはた迷惑なことをするなんて」
「分からないけれど……これ以上ことが大きくなる前に、魔術師団に捕まるといいわね……」
「ですねー。悪いことはダメですっ!」
フェリスは大きくうなずき、タルトにぱくっとかじりついた。




