あーん
ジャネットとフェリスは劇場で演劇を観てから、レストランに向かった。上演中からフェリスのお腹が鳴りっぱなしで、ジャネットは可哀想になってきたところだった。
二人がテーブルにつくと、給仕がメニュー表を運んできて、真っ白なテーブルクロスの上に恭しく広げる。
「フェリスはなにを召し上がります?」
ジャネットが尋ねると、フェリスは握り締めたメニュー表から顔を上げる。
「ケーキと、タルトと、シュークリームと、パフェと、プリンがいいです!」
「甘いものばかりですわね。バランスがよろしくないのでは?」
げんこつを突き上げるフェリス。
「じゃあ、マドレーヌも食べます!」
「ばっちり甘いですわ! もっといろんなものを食べないと、大きくなれませんわよ?」
「ジャネットさんは、わたしに大っきくなってほしいんですか?」
「えっと……それは……」
改めて訊かれると、ジャネットは返答に詰まる。
先日の夢に出てきた女王様のように、大人っぽいフェリスも魅力的だ。しかし、目の前でちんまりと首を傾げているフェリスの、抱き締めてどこかにさらってしまいたくなるほどの可愛さには勝てない。
「ジャネットさんのお願いなら、わたし、いーっぱい大っきくなります! 砂ゴリラみたいにムキムキになって、素手でリンゴを潰しちゃいます!」
「やっぱり大きくなっちゃダメですわ!」
ジャネットは肝を潰して止めた。
「ふえ? どしてですか?」
「フェリスは今のままが一番可愛いからですわ! もうなにも食べてはいけませんわ!」
「なにも食べないのはお腹空きますよう……」
フェリスは悲しそうな瞳でジャネットを見上げてくる。お腹はくーくー鳴っている。
そんな目で見られたら、ジャネットは抗えない。結局は大量のスイーツを注文し、色とりどりのお菓子がテーブルに運ばれてくる。
ジャネットはその中からマドレーヌをつまみ、フェリスに差し出した。
「フェ、フェリス……? どうぞ召し上がれ……?」
「食べさせてくれるんですか?」
「え、ええ。フェリスが嫌でなければ……」
「イヤじゃないです! ジャネットさん、やさしーです!」
無邪気に喜ぶフェリス。あーん、と愛らしく口を開き、薄桃色の舌が覗く。
――こんな幸運があるなんて……!
ジャネットは鼓動を速めながらマドレーヌをフェリスの口に近づけていく。緊張しすぎて震える手から、マドレーヌがこぼれ落ちた。
あっとジャネットが驚く暇もなく、反射的にフェリスがテーブルの下に転がり込む。
「落ちたモノを食べちゃダメですわー!」
ジャネットは慌ててフェリスを捕まえる。が、フェリスはとっくにマドレーヌをくわえてしまい、むぐむぐとすべて呑み込もうとしている。
「もっふぁいないです!」
「好きなだけ追加で注文してよろしいですから!」
「これ食べてからでもいいですか!?」
「それは食べちゃいけませんわー!」
「なんふぇですか?」
「汚いからですわ!」
「汚くないです! わたし、魔石鉱山でカビが生えたパンも食べてましたから!」
「フェリス……」
不憫な過去にジャネットが涙ぐんでいるあいだに、マドレーヌはフェリスのお腹に消えてしまった。
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