ジャネットの夢
荘厳な宮殿が、星空に座していた。
玉座に座っているのは、美を具現せし女王。銀の河のように流れる銀髪。慈愛に満ちた黄金の瞳。その麗しい膝に、長い髪の少女が震えながらすがりついている。
「女王様……。私、怖いです……」
「どうしたのですか?」
竪琴の音色を思わせる声で、女王が穏やかに問いかける。
「だって、もうすぐ人の王が攻めてくるんですよね……。扉を開く方法を人間たちが見つけたと、エウリュアレが言っていました……」
「たとえ人間たちがここに到達したとしても、あなたが傷つくことはありません。可愛いジャニス、あなたはわたしの大切な宝なのですから」
女王のやわらかな手の平が、少女の髪を優しく撫でる。
少女は嬉しくて我を失ってしまいそうになるが、女王から離れて空中に浮き上がる。主の厚意に甘えてばかりはいられない。守られるだけではなく、しもべとしての務めを果たし、女王の愛に応えなければならない。
「私、人間界に行ってきます! 不遜な連中が攻め込んでくる前に、軍勢ごと狩り尽くしてきます!」
女王が柳眉を寄せてたしなめる。
「人間界は危険ですよ。あなたの身になにか起きたら、わたしは耐えられません」
「平気ですよ! 私だってエウリュアレやレヴィヤタンみたいに、女王様のお役に立てます! 私、結構強いんですから!」
「無理をせずとも、あなたは今のままで良いのです」
「全然無理はしてないです! 大好きな女王様のために、頑張りたいだけですから! 私に任せて待っていてくださいね!」
少女は長い髪を踊らせて笑った。
女子寮の自室で、ジャネットは目を覚ました。
なめらかな絹の寝具に包まれたまま、ぽーっとした頭で夢の余韻に浸る。
不思議な夢だった。あんな綺麗な場所、今まで行ったことも、本で読んだことも、想像したこともない。
そして、あの女王。幼いフェリスとはまったく違って、大人の魅力に溢れた女性だったのに、顔立ちや雰囲気がどことなくフェリスに似ていたのは気のせいだろうか。
ひょっとしたら、自分はフェリスの成長した姿を無意識に想像してしまって、その姿が夢に出てきたのかもしれない、とジャネットは考える。召喚獣やライラたちがフェリスを女王様と呼んでいたのも記憶に残って、夢に影響を与えたのだろう。
――うんうん、きっとそうですわ!
ジャネットは一人で納得し、ベッドから滑り降りる。
見られるものなら続きを見てみたいけれど、どうせあれはただの夢。早く本物のフェリスに会いたい。
毎日フェリスと同じ部屋で暮らせるアリシアは許せないし、羨ましくて仕方ないから、ジャネットは朝一でフェリスの部屋に突撃するのが習慣だった。
完璧に身だしなみを整え、凜とした声で発声練習も済ませると、ジャネットは鏡の中の自分に大きくうなずいて部屋を出た。
女子寮の廊下を歩き、フェリスたちの部屋の前で立ちすくむ。毎朝通っているのに、いつになっても緊張する癖は変わらない。フェリスに嫌われたくない、素敵な人だと思ってほしい。
――わたくし、どうしてこんなにフェリスのことが好きなのですかしら……。
教室で一目見たときから、ジャネットは無条件でフェリスに惹かれてしまった。外見も人柄も雰囲気も匂いも、すべてが愛おしくて、その魅力に抗えなかった。
「お、おはようございます! 今日も気持ちのいい朝ですわね!」
ジャネットは意を決して勢いよく扉を開けた。
天井にフェリスが頭から突き刺さって揺れていた。
「フェリス――――――!?」




