表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
184/196

人形

 プロクス王宮の貴賓室で、フェリスたちはだらけきっていた。

 絶品の名物料理が好きなだけ出てくるし、広い風呂は入り放題、しかも勉強はしなくてよいとなれば、長旅の反動で気が抜けるのも当然。薔薇の花が散らされた湯船でほかほかになった少女たちは、ふかふかのベッドに顔をうずめる。

 一連なりになった貴賓室の中央、廊下への扉の前には、メイドが一人立っていた。フェリスがトコトコと近づいていくと、メイドは上品に微笑む。

「どうなさいました? 御用がございましたら、なんでもお申し付けくださいませ」

「あ、あの、メイドさんも疲れると思うので、座っててください。眠たかったら、ベッドもたくさんありますし」

 フェリスが心配する。このメイドは昼食のときから立ちっぱなしのような気がした。

「どうなさいました? 御用がございましたら、なんでもお申し付けくださいませ」

 同じ台詞を繰り返され、フェリスは小首を傾げた。

「えと……、立ってるの疲れないんですか?」

「どうなさいました? 御用がございましたら、なんでもお申し付けくださいませ。食事ですか、お召し物ですか、それとも玩具をお持ちいたしましょうか?」

「??????」

 会話が噛み合っていない。ひょっとしたら言葉が通じないのだろうかと思い、フェリスは行動で示すことにする。

「こっち、こっちです」

 椅子の方へメイドの手を引っ張ると――メイドの体がぐらりと揺れた。

「ひゃああっ!?」

 メイドが倒れ、フェリスが下敷きになる。じたばたもがくフェリスだが、非力すぎて抜け出せない。

「フェリスになにをしているんですのー!?」

 ジャネットが飛び起きた。毛布に頭まで潜っていたはずなのに、フェリスのことに関してはさすがの危機察知能力である。

 少女たちは寝室を出てフェリスの方へ駆け寄る。アリシアがフェリスを引っ張り出す。

「ご、ごめんなさい。だいじょぶですか? ぐあい悪いんですか?」

 フェリスはメイドに呼びかけるが、メイドは顔色一つ変えず繰り返す。

「どうなさいました? 御用がございましたら、なんでもお申し付けくださいませ」

「ふえ…………」

 フェリスは怖くなって後じさった。

 アリシアは嫌な予感がして、貴賓室の出入り口の扉に近づいた。ドアノブを握るが、回らない。まるで装飾品のように固定されている。

「どうしたのですか……?」

 ロゼッタ姫が不安げに尋ねた。

「閉じ込められてしまっているわ」

「罠ですの!? 今からわたくしたち公開処刑されるんですの!?」

「しょけい!?」

 縮み上がるフェリス。

「こうなったら強行突破ですわ!」

「ちょ、ちょっと! もう少し考えてから――」

 アリシアが止めるも間に合わず、ジャネットが風魔術で扉を破壊する。扉は悲鳴のように奇妙な音を響かせ、赤い液体を噴き出しながら萎れていく。

「な、なんですの、これ……? 気味が悪いですわ……」

「見てください、廊下に!」

 ロゼッタ姫が指差す先、エントランスへと続く通路には、大勢の人間がいた。召使いや役人など衣装は様々なれど、皆一様に棒立ちし、じっと少女たちの方を見ている。四列に秩序正しく並び、無表情で瞬きもしない。

「あ、あの……目は痛くないんですか……?」

「気遣ってる場合じゃありませんわー!」

「逃げるわよ!」

 ジャネットとアリシアがフェリスを抱え、召使いたちとは反対方向に駆け出す。召使いたちはゆっくりと歩調を合わせて後を追ってくる。その余裕たっぷりの様子が恐ろしく、少女たちは階段を転がるようにして下りていく。

 前方の床が歪み、にょきにょきとなにかが生えてくる。人のシルエットになり、シルエットの細部がローブを形作って、袖から痩せ細った腕が伸びる。フードを目深に被り、邪悪な気配を漂わせたその姿は――『探求者たち』の術師。

「今回も『探求者たち』が関わっていたのね……」

 アリシアは杖を構えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング

コミカライズがスタートしました!
試し読み
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ