関所
険しい山間の峡谷、隘路を馬車が進みに進み、やがてプロクス王国との関所が前方に見えてきた。
バステナ王国側の関所のため、門の前にはバステナ王国の兵士が見張りに立っている。
王家の守護者たる騎士団の紋章も、王宮が拡張論者に牛耳られた今となっては、ロゼッタ姫にとって脅威にしか感じられない。
門が閉ざされている気配はないようだから、バステナ王国はまだプロクス王国に正式に宣戦布告しているわけではないのだろう。
「姫殿下が関所を通ろうとしたら、絶対に捕まりますわよね……?」
ジャネットが心配すると、アリシアがうなずく。
「姫殿下が逃げたという情報は届いているはずだものね。影狼も隠れているかもしれないわ」
おろおろするフェリス。
「ど、どうしましょう? ロゼッタさんが捕まったら大変です! お兄さんに叱られちゃいます!」
「叱られるぐらいで済むならいいわね……」
アリシアは思案する。たとえ家族といえど、王族や貴族の争いというものは激しい。下手をするとロゼッタ姫は一生幽閉されるかもしれない。
「あっ、そうです! ロゼッタさんがわたしに変装すれば……!」
「わたくしの身長では、フェリスみたいに小っちゃくはなれないと思います」
「あう……小っちゃくてごめんなさい……」
ロゼッタ姫に指摘され、フェリスは余計に小さく縮こまる。
こちらの方向からプロクス王国に入る場合、他のルートは馬車も人間も進むのが難しい。
山々が切り立っているのはもちろんだが、過去の獣神戦争の影響で、地面に無数のトラップ型術式が埋め込まれているのだ。
下手に足を踏み入れれば、業火に襲われて消し炭にされてしまう危険性すらある。
「えとえと、それじゃあ、これはどうでしょう? 旅行用のパンが入っていた、大きな袋があるんですけど……」
「まさかフェリス、それに姫殿下をお入れするとか言いませんわよね!?」
あまりに恐れ多い提案に、仰天するジャネット。
「関所を通るあいだだけです! パンのふりをしていたら、だいじょぶだと思います!」
「パンのふりですか……わたくしに立派なパンが務まるでしょうか……?」
ロゼッタ姫は真剣に思い悩む。
「ロゼッタさんならだいじょぶです! ロゼッタさんってすごくパンに似てますし!」
「パンに似てる人間ってなんですの!?」
「ふわふわしてて、いい匂いがして、食べるとほわわんってなる人です!」
「いつの間に姫様を食べたんですの!?」
ジャネットは愕然とする。
「分かりました……フェリスがそこまで言ってくれるなら……わたくし、頑張ります。頑張って……パンになります!」
ロゼッタ姫は胸に手を当て、凜々しく言い放った。




