守る者たち
フェリスが精錬界を巡っているあいだ、魔法学校の広場では。
急に倒れてしまったフェリスの体を守り、友人たちが『探求者たち』の術師と熾烈な戦いを繰り広げていた。
「その娘を渡せ! そうすれば貴様たちの命も、我々が有意義に使い尽くしてやろう!!」
術師が闇の炎を放ち、アリシアとジャネットを焼き払おうとする。
「どうせ殺されるなら、死ぬまで戦った方がいいわ!」
「フェリスはぜーーーーったいに誰にも渡しませんわ!!」
二人は連携魔術で術師の炎を食い止めるが、すべてを防ぐことはできず、傷だらけになっている。
それでもフェリスの体だけは損なってはならぬと、自らを盾にして必死に言霊を唱え続けていた。
こうしてフェリスが気を失ったのは、初めてではない。王都が消失したときにも、フェリスは魔力のスフィアで黒雨の魔女の記憶を覗き込んだときに意識をなくしていた。
だから、必ずやフェリスの心は戻ってくるはずなのだ。そうでなければならないと、友人たちは懸命に自分に言い聞かせる。
「我らの高邁な理想も分からぬ俗人どもが、鬱陶しい! もういい、まとめて消し飛ばして魂の残滓から魔力を回収するだけのことだ!」
術師が杖を振りかざし、複雑怪奇な言霊を詠唱する。
その先端から巨大な闇が広がり、闇が触手となり、百の手足を蠢かせる異形となって広場に溢れ落ちてくる。
「きゃー!? 化け物ですわー!」
「魔法生物イジラクドラ!!」
広場ごと呑み込まれそうになるジャネットとアリシア。
変幻自在な異形の巨躯に周りを囲まれて退路を失った二人に、異形の口から紅蓮の炎弾が唾液のように降り注ぐ。回避する場所はなく、新たな魔術を繰り出す暇もない。
反射的に、ジャネットとアリシアは抱き締め合って目を閉じた。二人の体でフェリスを包めば少しは守れると感じたのか、それとも物心ついたときからのライバルと一緒なら最期も怖くないと思ったのか、もしくはその両方か。
死を覚悟する二人に、灼熱の炎が迫る。
が、炎が二人を焼き尽くすことはなかった。
突如、強靱な魔法結界が二人の周囲に現れ、炎弾をことごとく跳ね返したのだ。
魔法生物イジラクドラは、己の炎を喰らって抗議の鳴き声を上げ、少女たちから距離を置く。
魔法結界は、二人の腕のあいだに突き出したフェリスの手の平から生じていた。
「フェリス! 気がついたのね!」
フェリスは目をぱちくりとさせる。
「……? どしたんですか?」
「それはこっちのセリフですわ!」
きょとんとするフェリスに、大きな安堵を覚える友人たち。
術師が舌打ちする。
「厄介な娘が目を覚ましたか……だが、我らの前進を阻むことは何者にもできぬ!」
禍々しい杖が振り上げられ、魔法生物が醜い体を揺らして咆哮した。