囚われしモノたち
四つの眼を妖しく光らせたネズミが、壁の穴をかいくぐり、梁を飛び移り、天井裏を走り抜けて逃げていく。
古びた歯車が幾重にも並び、輝くキノコがところどころに生えた、部屋と部屋の隙間の空間。
「が、学校の裏側って、こんなふうになっていたんですのね」
「この学校、私たちの知らないことがまだまだありそうね……!」
初めて見る光景に、ジャネットやアリシアは息を切らしつつも驚嘆を禁じ得ない。
ネズミが穴から学校の屋根の上に飛び出した。
四匹の猫――フェリス、レイン、アリシア、ジャネットが、ネズミを屋根の端へと追い詰めていく。
「せーので、捕まえますわよ! せー、」
「にゃー!!」
ジャネットの合図もむなしく、猫の本能に駆られたフェリスがネズミに飛びつく。
爪を喰らってもんどりうつネズミ。
「そこじゃ!」
レインが体内から黒い瘴気を溢れさせ、ネズミに叩きつける。
「くっ……!!」
ネズミは屋根の上から身を翻すと、ローブの術師の姿に戻りながら、噴水広場に着地した。ダメージを負っているのか、立ち上がろうとしてうずくまる。
「今じゃ、フェリス! 魔法結界を作るぞ!」
「は、はいっ!!」
黒雨の魔女と真実の女王が協力して言霊を唱え、広場の周りにダイヤモンドの外殻が形成されていく。外殻から内側に鋭い棘が突き出し、術師の体を縦横無尽に貫く。
「かっ……はっ……」
術師の萎びた口から、血が噴き出した。
黒雨の魔女は黒髪を幾千の蛇のように波打たせ、少女たちを反撃から守りながら、術師に迫っていく。
「もう逃げられぬぞ、『探求者たち』。いつまでも母親の幻想から抜け出せぬ、腐った赤子共めが」
「くく……くくく……」
「なにがおかしい」
「そうだな、もう逃げられない。これでチェックメイトだ」
術師が歪な形の杖を振りかざし、高速詠唱を行う。
すると、辺りの風景が姿を変え、魔法学校ともトレイユの街とも異なる都市が映し出された。
「これは……幻惑魔術、よね……?」
「今さら幻惑魔術なんか使って、なんの意味があるんですの!」
アリシアとジャネットは戸惑うが。
フェリスはぞくりとした。
この場所には、見覚えがある。
スフィアの影響で見た幻。数千年前の光景。
かつて黒雨の魔女が……最愛の少女を殺された街。
「だ、だめです! この景色は……!」
フェリスが慌てて隣を見やると、レインが立ち尽くし、黒い涙を流していた。
「あぁ……あぁ……あぁぁぁぁ……」
細い喉から漏れるのは、慟哭。怨嗟に満ち満ちた呪詛。
「黒雨の魔女よ、貴様は脆すぎる。それは貴様が、いつまでもくだらぬ人間の娘の幻想から抜け出せないから……だから、貴様はいつも負けるのだ」
『探求者たち』の術師の杖が、黒雨の魔女の胸を貫いた。




