マウスハント
「探求者たちは、この魔法学校を牧場にするつもりなのじゃ」
「ぼくじょう……?」
レインの言葉に、フェリスが小首を傾げる。
「うむ。魔術師の卵を大量に閉じ込め、脅威に晒すことで抵抗に魔術を使わせ、放出される魔力をかすめ取る。それが彼奴らの目的じゃろう。実際、あちこちに魔力吸収の術式の片鱗を感じる」
「じゃあ、被害はそんなに出ないと思っていいのかしら……」
「戦意を煽るための見せしめとして適宜殺すかもしれぬが、大多数は永劫に魔力を生み出し続ける家畜として、この魔法学校の中で飼われ続けるじゃろう。安心せよ」
「全然安心できませんようっ!」
「そうですわ! 生き地獄ですわ!」
悪夢の中をさまよい続けるのは、死にも等しい拷問だ。
「魔力吸収の術式をたどって、探求者たちの居場所を突き止めようとしたのじゃが、できなかった。どうやら、かなり体も気配も縮めて、校内の深部に身を潜めているらしい」
「ずっと、このままってことですか……?」
フェリスは声を震わせる。
「なに、そなたの『真実の瞳』の力なら、たどるのも容易なことじゃ。既に魔力のパターンの分析は済ませておる」
レイン――黒雨の魔女は、フェリスの手をきゅっと握った。
「今からそなたに、今回学校に乗り込んでいる術師の魔力のイメージを送る」
「え…………」
戸惑っている暇もなく、黒雨の魔女の手から鮮烈なイメージが流れ込んでくる。
赤黒い血に彩られた、邪悪な瘴気。フェリスは酷い寒気に襲われるが、目をそらすことは許されない。
「……この魔力じゃ。覚えたか」
「……はい。分かりました」
フェリスはうなずくと、意識を集中させ、同じ波動の魔力を探す。
そして、見つけた。レインが言ったとおり、奇妙なほどに小さな生き物が遠くに身を隠し、邪悪な魔力を漂わせているのを。
「向こうです!!」
「捕らえるぞ!」
フェリスが壁を指差すと、レインは素早く黒猫の姿に変貌し、壁の穴に突っ込む。
フェリスはレインの後を追って走り、壁に激突する。
「ふえええ……痛いですう……」
「さすがにフェリスでもその狭さは無理があったわね」
「だいじょぶだと思ったんです……うう」
「よしよし、痛いの痛いのとんでけー」
真っ赤になったフェリスの鼻を、アリシアが優しく撫でる。
ジャネットはフェリスが気の毒な気持ちと、でもそんなうっかりさんなフェリスが愛しい気持ちとの板挟みになって悶えている。
「ふむ……その姿では動きづらいか。ならば、これでどうじゃ」
レインが戻ってきて前肢を振ると、黒い瘴気がフェリスの周りにまといつく。瘴気は毛皮となり、色を変え……フェリスの姿を銀色の子猫に変える。
「ふえええええ!? わたし、にゃーさんになっちゃいました! ほらほら、見てくださいっ!」
フェリスは小躍りする。
「あ……あ……」
元来、可愛いフェリスのことも可愛い猫のことも大好きなジャネットである。その二つが組み合わさったとき、発生する可愛さは無限大。
「もうムリですわあああああああっ!」
「ひゃあああああっ!?」
思わずフェリスに飛びつくジャネット。
が、そこで違和感。
猫になったフェリスを手の平で抱き上げようとしたはずなのに、これは抱き上げたというより……のしかかったという感触。サイズがあまり変わらない。
「って、どうしてわたくしまで猫になってますのーっ!?」
ジャネットは気位の高そうな赤毛の猫に変わっている。
長毛の猫に変えられたアリシアはしげしげと辺りを眺める。
「私も猫になっているわ。なるほど、猫目線ってこういう感じなのね」
「アリシアはどうして冷静ですの!?」
あいかわらずジャネットにはライバルの思考が掴めない。
「さあ、真実の女王よ、行くぞ! ネズミ狩りじゃ!」
「はいーっ!!」
四匹の猫は仲良く並んで壁の穴に突入した。




