疑惑の黒
本日11月30日は、書籍版5巻の発売日です!
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術師が慇懃無礼にお辞儀をする。
「感謝するぞ、黒雨の魔女。貴様が内部から結界に干渉して我らを引き込んでくれたお陰で、こうして難攻不落の魔法学校に入ることができた」
「なにを言っておるのじゃ……わらわはもはやそなたらと協力関係にはないじゃろう!」
黒雨の魔女が声を荒げると、術師は肩をすくめる。
「もう隠さずともよいのだ、黒雨の魔女。そういう段階は終わった。さあ、貴様の力を存分に振るってくれ」
「まさか……そなた……」
黒雨の魔女が術師を睨み据える。
「え、えっと……どうなっていますの……?」
「私たちに近づいたのは、魔法学校に潜入する隠れ蓑だったということかしら……」
困惑する少女たち。
駆けつけてきた教師たちが、黒雨の魔女を取り囲む。杖を構え、険しい表情で告げる。
「フェリス、その魔女から離れなさい」
「い、いやです! 黒雨の魔女さんは悪い人じゃないです!」
フェリスはぶんぶん首を振った。
「黒雨の魔女は歴史上稀に見る大罪人。存在そのものが悪なのです。離れなさい」
にじり寄ってくる教師たちに、フェリスは両腕を広げて黒雨の魔女レインをかばう。
「違います! 暴れてたときもありましたけどっ、それは悲しい行き違いのせいで! ホントのレインさんは優しい人です! わたしはレインさんを信じてます!」
「フェリス……」
レインは目を瞬いた。
友人たちが顔を見合わせる。
「フェリスがそう言うなら……ね?」
微笑むアリシア。
「わたくしは魔女は信じられませんけど……フェリスのことを信じますわ!」
ジャネットがフェリスと一緒になってレインを守る。
「ええ。フェリスが信じる方をわたくしも信じます」
ロゼッタ姫も教師たちを見据えて立ちはだかる。
教師たちが言霊を唱え、生徒の向こうの魔女を滅ぼそうと魔法陣を展開する。
術師が体を揺すって嗤った。
「なんたる友情! なんたる信頼! しかし滑稽なものだなぁ、そいつは真の闇だ。我々がこの場の五割の命をもらいうけ、そいつが残りを頂く協定なのだ!」
「違いますよね、レインさん!?」
フェリスが振り向くと、黒雨の魔女の姿は消えていた。
「え!? いませんわよ!?」
「どこ行ったんですか!? レインさん!? レインさんっ!!」
このままでは黒雨の魔女が余計に疑われる。フェリスは必死に呼ばわるが、答えはない。
「そういうことだ! 貴様らは魔女に利用されただけなのだ! 信じれば裏切られる! 真実はかの宮殿にしか存在しない! 偽りにまみれた世界に価値はない! くく……くははははは!!」
術師の高笑いが響き渡った。