まつろわぬ猫
百合ファンタジーの新作も連載しています!
『追放ネクロマンサー少女の二周目最強ゲーム』
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どうぞよろしくお願いいたします!
「まじょさん、まじょさん! ちょっとだけ! ちょっとだけでいいですからお願いしますっ!」
「イヤだと言ったらイヤじゃ! しつこいのじゃ!」
女子寮の外庭で、フェリスが黒雨の魔女(猫モード)について回る。黒雨の魔女(というか黒猫)はぷいっと鼻をそむけ、相手にもしない。
「わたし、にゃーさんが大好きなんです! にゃーさんの頭なでなでしたいんです! お願いします!」
「わらわは猫ではないわ! 誇り高き黒雨の魔女じゃ! たとえ相手が真実の女王であろうと、そう簡単に頭を撫でさせたりはせぬ!」
「わたしの頭も撫でていいですから!」
「要らぬ!」
「森で拾った大事などんぐり(食糧)もあげますから!」
「もっと要らぬわーっ!!」
抱き締めようとするフェリスに、黒雨の魔女はフシャーッと威嚇し、その鋭い爪でバリバリと引っ掻く。
決してフェリスに触られるのが嫌というわけではないのだが、そこはそれ、大魔女のプライドがある。少し前まで血で血を争う戦いをしていた手前、簡単に肌を許してしまってはならぬとの乙女の意地もあった。
そして、そんな報われないフェリスのアタックを傍観しているのがジャネットとアリシア。ジャネットは美しい唇に指を添え、羨ましそうにつぶやく。
「わたくしなら……いくらでも頭を撫でさせてさしあげますのに……」
アリシアがおかしそうに笑う。
「あら、ジャネットはフェリスに甘えたいのかしら?」
「そ、そういうわけじゃありませんわっ! ただ、フェリスのしたいことならなんでもさせてあげたいだけですわ! 撫でてほしいとか……べつに……」
もごもごと口の中でつぶやくジャネット。ほっぺたは赤く染まっている。
「そんなに撫でられたいのなら、私が撫でてあげるわ」
「要りませんわ!!!!」
アリシアに頭を撫でられそうになって、ジャネットは素早く身をかわした。アリシアの膝枕でなでなでされるのは嫌いではないのだが、しかしながら好きとも認めたくない、矛盾に満ちた心境。こっちもこっちで戦争である。
フェリスが黒雨の魔女に引っ掻かれながらも一生懸命アプローチしていると、そこへロッテ先生がやって来た。
「ふゃっ!?」「先生ですわ!!」
跳び上がるフェリスとジャネット。
ロッテ先生は首を傾げる。
「あれれ? なんか他にも誰かの声がしてたんだけど、フェリスちゃんたち三人だけ?」
「そ、そうですわ!」
黒雨の魔女が魔法学校内に隠れているなんて、知られるわけにはいかない。大騒ぎになって魔術師団が王都から進軍してきてしまう。
「聞き覚えのある声と喋り方だったんだよねー。あと、黒雨の魔女がなんとかかんとかかって言ってたような……?」
「ちちちち違いますわ! ねっ、アリシア!?」
「ええ。黒雨の魔女がこんなところにいるはずがありません」
慌てるジャネットに、うなずくアリシア。
ロッテ先生は怪訝そうな顔をしながらも、フェリスの方を見やる。
「お、可愛い猫だねー。野良猫?」
「あ、は、はい! そこで拾いました!」
フェリスは黒猫をぎゅーっと抱き締める。さすがに黒雨の魔女も人間の言葉を喋ろうとはせず、
「にゃ、にゃー」
などと普通の猫のふりをする。
「ふうん……そうなんだ。なんか妙に魔力が強いというか、不思議な感じがするんだけど……誰かが猫に化けてるとかじゃ、ないよね?」
――勘のいい人間は嫌いじゃよ!!
黒雨の魔女は心の中で叫ぶ。
ぶんぶんと首を振るフェリス。
「か、かわいいにゃーさんですっ! ほら、ぎゅーってしても怒りませんし、頭なでなでしても怒りませんしっ!」
念入りに可愛がって、普通の猫アピールをする。
――なにを好き勝手やっておるのじゃ!
黒雨の魔女は憤慨するが、言葉で抗議することはできない。仕方なくライオンのように鋭い目つきで睨んでやるが、フェリスは気付かない。
「うーん……なんで引っかかるのかなぁ……?」
ぐるぐると悩むロッテ先生。
「そ、そうだ! にゃーさんにごはんあげるとこだったんです! ほら、にゃーさん、おいしーお魚ですよー!」
フェリスは干物のカカオフィッシュを黒雨の魔女の口に入れる。
――こ、こやつ! わらわはこのような泥臭い食い物など……あ、意外とおいしい……いいや、バカにするな! わらわは! もっと美しいモノしか! 食わぬのじゃ!!
なんて思いつつ、猫の本能には抗えずはぐはぐ食べる魔女。
ロッテ先生は肩の力を抜く。
「そっかー! まあいいや!」
「はいー!」
突然のピンチには肝を冷やしたが、とりあえず黒雨の魔女の頭をたくさん撫でることができて嬉しいフェリスだった。