勉強会
「どうして……こんなことに……なったんですの……?」
魔法学校の図書館でジャネットはすすり泣いていた。
机に山と積まれているのは、魔術史学や魔法薬学など、教本の数々。
国境地帯に出かけていたあいだに進んでしまった授業範囲を教本で読み込み、クラスメイトから借りた板書ノートを書き写し、ジャネットは知識を必死に頭に叩き込む。
その隣で、アリシアは優雅に詩集を楽しんでいる。
「私たちだけ授業を受けていなかったのだし、外出中の小テストも不合格だったのだから仕方がないわ。頑張って」
「なんですの、その高みの見物は!? だいたいおかしいですわ、アリシアだけテストに合格するなんて! あなたも一緒にナヴィラ族の山に来ていましたわよね!? あれは影武者でしたの!?」
「私は旅行中もきちんと勉強はしていたもの」
「紛争中に!? あなたおかしいですわ!」
「勉強は毎日の積み重ねが大切なのよ」
「ほえー、そうなんですねー。さすがアリシアさんです! わたしも見倣いたいですっ!」
「見倣っちゃダメですわ!」
ジャネットもアリシアのことはマイペースなライバルだと知っていたが、それにしてもマイペースすぎて呆れてしまう。
「ま、まあ、いいですわ。追試を受けるのはフェリスとお揃いですもの。アリシアは勉強する必要もないのですから、先に帰っておいて構いませんわよ?」
あとはフェリスと二人きりで……とジャネットはどきどきする。
だが。
「わ、わたしも勉強終わっちゃったんですけど、帰らなきゃダメですか?」
フェリスから悲しそうな目で見上げられ、ジャネットは耳を疑った。
「ちょ、ちょっと、いくらなんでも早すぎますわ! まだ始めてから二時間も経っていませんわよ!?」
「え、えと、でも、もう授業範囲、全部暗記しちゃって……」
「そう、でしたわ……フェリスは……」
とてつもない記憶能力の持ち主なのだ、とジャネットは思い出す。相互に多少の誤解があった(というかジャネットが一方的にフェリスに突っかかっていた)編入当初も、フェリスは恐るべき速度でミドルクラスの授業に追いついてしまったのだ。
「こんな……こんなのあり得ませんわ……わたくしだけ落ちこぼれだなんて……」
「大丈夫、終わるまで私も付き合ってあげるから」
「わ、わたしもおーえんしますっ! がんばれがんばれジャネットさんっ!」
「うぅぅ……」
フェリスの応援が嬉しい気持ちと、アリシアに応援されることへの悔しい気持ちの板挟みになり、ジャネットは唇を噛み締める。
そのとき、どこから紛れ込んできたのか、一匹の黒猫が机に飛び乗った。漆黒の闇のような艶のある毛皮に、真っ黒な瞳が印象的。独特な雰囲気を漂わせた猫だった。
「わっ! にゃーです!」
「こんなところに猫……?」
驚くフェリスとアリシア。
黒猫はフェリスのペンをくわえ、机から飛び降りて逃げ出す。
「にゃーさん!? 泥棒はダメですよーっ!」
フェリスが黒猫を追いかけようと駆け出した直後、本棚がぐらりと揺れ、机に叩きつけた。
「きゃ――――――!?」
凍りつくジャネット。
それも当然、自分のすぐ隣でフェリスの筆箱が本棚の下敷きにされ、ぺしゃんこになっているのである。少し間違えたらフェリスがぺしゃんこになっていたのでは……なんて考えると、生きた心地がしない。
「待ってくださーいっ!!」
フェリスは慌てて黒猫の後を追った。




