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結果発表

 朝の教室。


 既に全員揃っているクラスメイトたちを見回すと、ロッテ先生は教卓に紙束を置いた。


「はーい。それじゃ、フェリスちゃんの編入試験の答案を返すよ~」


 来た! とフェリスは椅子の中で身を縮こまらせた。


 もしこれで合格できなかったら、学校を辞めないといけなくなる。またどこかの鉱山で働かなければならないのだ。


 それはフェリスだけの問題だから、どうにか我慢できるとしても、アリシアの評判が下がったままなのは困る。せめてアリシアの名誉だけは、なんとかして回復させたかった。


 ロッテ先生が尋ねる。


「普通はそれぞれの点数を発表したりはしないんだけど、今回は発表しないとみんな納得しないだろうから……フェリスちゃん、いいかな?」


「はい、大丈夫です!」


 フェリスは大きくうなずいた。 


「それじゃ……みんな注目! これがフェリスちゃんの点数だよ!」


 ロッテ先生が七枚の答案を扇状に広げ、生徒たちの方に点数を見せた。


 アリシアが両手で口を押さえる。


 ざわつくクラスメイトたち。


 ジャネットが机に手を突いて跳ね起きる。


「あ、あり得ませんわ! あり得ません! 一週間前まで文字を読めなかった子がそんな点数なんてっ!」


「全部、ひゃくてん……? いちまんてんのうち、ひゃくてんですか……?」


 フェリスはカタカタ震えながら尋ねた。


 魔術に関する本はたくさん勉強したし、そこに魔術の知識は載っていたが、テストの得点システムについてはまったく書かれていなかったのだ。

 だから、百点というのが一体全体どれほどの評価なのか、さっぱり分からない。分からないから、怖い。


 そんなフェリスに、ロッテ先生が吹き出す。


「百点中、百点だよ! 百点満点! しかも全教科だから、オールパーフェクトだよ!!」


「ぱーふぇく、と……?」


 フェリスは頭が真っ白になった。

 なにがなんだか分からなかった。


 文字も読めず、無知で無能な自分が完璧な点数を採れるなんて、予想もしなかったのだ。これは夢ではないかと思い、ほっぺたをつねってみる。


「ひゃ!? 痛いです! すごく痛いです! 涙が出ちゃいますっ!」


「今すぐ手を離しなさい!」


 必死に頬をつねり続けるフェリスの手を、急いでアリシアが引っ剥がす。


「百点……!?」「天才じゃん!」「すげー!」「かっこいい!」


 クラスメイトたちは口々に言う。


「やー、先生も驚いたよ! まさか満点取ってくるなんて、やるねー! さすがは校長先生お墨付きの編入生だね!」


 ロッテ先生は腕を組んでしきりにうなずく。


 フェリスはジャネットの目を真っ直ぐ見つめる。


「こ、これで、アリシアさんのことを悪く言わないでくれますよね!? 不正とかじゃないですよね!?」


「う……えっと……。そ、その、ごめ……」


 ジャネットは言葉に詰まった。

 うつむいてなにかを言おうとしているが、フェリスにはよく聞こえない。

 ジャネットは顔を真っ赤にして、フェリスを指差す。


「ま、ままままだそうと決まったわけではありませんわ! あなたが受けたのは、筆記試験だけ! 実技試験はやっていませんもの!」


「じつぎしけん……?」


 まだなにかしなければならないのだろうかと、フェリスは不安になった。運良く筆記試験は合格できたけれど、次も上手くいくとは思えない。なにせ、フェリスはただの鉱山奴隷なのだから。


「そう、実技試験ですわ! 基礎的な魔術を使えなくては、魔法学校に入る資格はありませんもの! ここにいる生徒たちは、誰もが小さな頃から魔術をしっかりと叩き込まれてきた者ばかり! フェリス、あなたはわたくしたちに匹敵するほどの訓練をしてきたのですかしら!?」


「し、してませんけど……ずっと穴掘りしてましたけど……」


 フェリスは唇を噛んだ。


 つい最近まで、自分は魔術が使えるということさえ気付きもしなかったのだ。とてもじゃないが、クラスメイトのみんなに敵うわけがない。そう考えると、目がじわっと潤んできてしまう。


「穴掘り! 穴掘りと来ましたか! 笑ってしまいますわ!」


「うう……」


 縮こまるフェリスの肩に、アリシアがぽんと手を載せる。


「大丈夫。フェリスはちゃんと魔術が使えるじゃない。見せてあげればいいのよ、あなたの力を」


「で、でも、わたしの魔術なんて、まだ未熟ですし……」


 フェリスはためらうが、ロッテ先生も言う。


「未熟でもいいから、ちょっと使ってみせて。素質さえあれば、それでいいから。その場で簡単な魔術を使うだけでいいよー」


「は、はい……それじゃ……」


 フェリスは気後れがちに手を掲げた。言霊ならテスト勉強で丸暗記したから、ちゃんと分かる。


「ストップ! やるなら外でやりましょ!」


 アリシアが大慌てでフェリスの手を握り締めた。


「どうしたの、アリシアちゃん?」


 きょとんとするロッテ先生。


「危ないですから! すみませんが、フェリスの実技試験は戦闘訓練場でお願いします!」


「うん……? まあ、いいけど。じゃー、てきぱき進めるよー。訓練場に移動してー」


 ロッテ先生が指示し、クラスメイトたちはどやどやと教室を出て行く。


 フェリスとアリシアもみんなを追いかける。


 その後ろで、ジャネットは頭を抱えていた。


 こんなつもりじゃなかったのだ。フェリスが合格点を取ってくれたことは、祝福してあげるべきだったのだ。


 でも、素直になれなくて。


 ついつい、またケンカを売ってしまった。


 なぜか、アリシアに対するよりさらに、フェリスに対してはストレートに接するのが難しくてしょうがない。


 妙に突っかかってしまうというか、なにか言われる度に反論したくなるのだ。


「どうして……どうしてですのーーーーーーー!?」


 みんなのいなくなった教室で、ジャネットは一人叫んでいた。

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