恭順
つい先程まで鮮烈な敵意をほとばしらせていたはずのバルフが、フェリスの前にひざまずいた。
地面に額を叩きつけ、血を流しながら叫ぶ。
「申し訳ございません、女王様! 我が無知、我が罪を、お許しください! すべての罪は俺の不徳が致すところ……ガデルの皆には関係がありません! どうか、この首をお切り捨てください!!」
「ふ、ふえっ!? くび!?」
フェリスは縮み上がった。
「急に態度が変わりましたわね……なんなんですの?」
訝るジャネット。
「どうしてあなたたちはフェリスのことを女王と呼んでいるのかしら。ガデル族の人まで」
アリシアが問いかけた。
「女王様は女王様だから、ですな」
「ねえ。女王様は、女王様」
レヴィヤタンとエウリュアレは肩をすくめる。
「それじゃ分からないわ……」
アリシアはつぶやくが、召喚獣たちは答えようとしない。
「どうなさいます、女王様? お手をお汚しになるのがお嫌なら、このレヴィヤタンめが一瞬で冒涜者を焼き尽くしてご覧に入れますが?」
「や、焼いちゃダメです!」
フェリスが慌てて止めると、エウリュアレが両手を握り締めて感嘆する。
「ああ、なんて女王様は慈悲深いのでしょう! 醜い姿に焼くのではなく、私の力で心を蝕み、生きたまま骸人形に造り替えよとおっしゃるのですね!」
「人形にするのもダメですーっ!」
召喚獣たちの提案に、アリシアとジャネットは顔を見合わせる。
「フェリスの召使いたちって……」
「ず、随分、過激ですわね……」
優しい主の性格とは大違いだ。
フェリスはバルフの前にしゃがみ込んで話しかける。
「わたし、誰にも死んでほしいなんて思わないです。アリシアさんのお父さんを返して、ナヴィラの人たちとも仲直りしてくれれば、それでいいです」
「ナヴィラは……女王様の敵対者だというのに……滅ぼすなとおっしゃるのですか……?」
バルフは信じられないといった目で見上げた。
「よく分かんないですけど……誰も滅ぼしてほしくないです」
フェリスの言葉に、レヴィヤタンも付け加える。
「わたくしとしてはナヴィラなど消し去りたい気持ちでいっぱいなのですが、女王様の御意志なら仕方ありませんな」
エウリュアレもうなずく。
「ええ、女王様こそが世界の理、永遠の真実なのですから。ガデルの下僕たちにも、ナヴィラから手を引くよう伝えなさい。……ただし、今の女王様の器については漏らさず、ね。探求者たちに気取られるのは面倒だから」
「……御意」
バルフは深々と平伏した。
フェリスはバルフに頼む。
「それで、その……アリシアさんのお父さんの居場所とか、知っていたら教えてほしいんですけど」
バルフは起き上がる。
「恐らくは、この採取場に集められているものかと。ご案内いたしましょう」
「採取場……?」
フェリスは小首を傾げた。




