子孫たち
ガデル族の長バルフが、ゆっくりと迫ってくる。
その険しい表情、鋭い眼光、手に握られた斧の凶暴な輝きに、フェリスたちは身を寄せ合って震えた。
「気をつけて、みんな」
「に、逃げるという選択肢は……ありませんわ! ありませんわよね!」
アリシアとジャネットは杖を構える。
フェリスはくずおれそうになる足を必死に踏ん張り、バルフを見上げた。
「ロ、ロバートさんがこの中にいるはずなんです! か、返してください!」
「ロバートが誰かは知らんが、俺は連中との盟約があるもんでな……近づく敵は殺さねばならん。たとえ、相手が子供でも、だ」
「探求者たちから警備を任されているということ……? つまり、それだけ大事なものがここにはあるのね……?」
アリシアが探りを入れる。
「……答える必要はない」
「探求者たちと同盟を組むなんて、信じられませんわ! 彼らは最低最悪の外道……わたくしやアリシアを誘拐したり、あちこちで騒ぎを起こして大勢の人を泣かせている極悪人ですのよ!」
「知らん。俺たちには連中の力が要る、それだけだ」
バルフは飽くまで酷薄な面持ちを緩めない。
「あ、あのっ、ナヴィラ族の人と、仲直りとか、できないんでしょうか?」
「仲直り……?」
フェリスの言葉に、バルフはぽかんとする。
「たくさん、たくさん、悲しいことがあったと思うんですけど、でも、戦い続けたら、もっと悲しいことばっかりになっちゃいます。だから、仲直りとか、できたらって……土地は、話し合って、みんなで使えたらって……」
舌足らずながら、切々と訴える。
けれど、バルフはそれを一笑に付した。
「ふん、くだらんな。俺たちはナヴィラのゴミ共の土地が欲しいわけじゃねえ」
「じゃあ……どうして……」
「ナヴィラの存在自体が害悪だからだ。古の魔素大戦で、咎人たちは女王の叡智を盗み、ナヴィラという異形を造り出した。それは女王への冒涜。女王に牙を剥いたナヴィラは、生きていてはならない一族。だから、ガデルはナヴィラを滅ぼし絶やす使命を持っている。女王の行方が分からぬ今、俺たち従僕にできるのは、それだけだからだ」
「女王って……ガデル族の?」
アリシアが尋ねる。
「女王も知らない不浄の民が。女王は女王だ。唯一無二にして絶対の支配者、偉大なる真実の女王。我らが慈母、我らが根源、魔素の授与者だ!」
「じょ、女王様も、そんなことして欲しくないと思います! 優しい人なら、戦争なんてさせたくないはずです!」
「お前のような小さな子供に、なにが分かる!」
「分かります! 女王様がここにいたら、意地悪なことしちゃメッて怒るはずです! みんな仲良くしなきゃって怒るはずです!」
「黙れ……そのお喋りな口を閉じろ……崇高なる女王の代弁者を騙る資格など、この世の誰にもありゃしねえ!」
バルフは激怒して襲いかかってきた。




