巣窟
フェリス、アリシア、ジャネットの三人は、ロバートの魔力の痕跡を追って地下の洞窟を進んだ。
洞窟の岩肌はつるつるしていて、まるで溶けたロウソクのようだった。ロウソクと違うのは、頭を打ったら大怪我をしてしまうということ。フェリスたちは何度も転びそうになり、お互いに支え合いながら走った。
やがて、洞窟の向こうから風が吹いてきた。
水の流れる音、草木の青くて苦い匂い。
光が射し込み、大きく切り取られた蒼天が見えてくる。
気がつくと、三人は森の中に出ていた。
張り出した梢の向こうには、ガデル族の村があった谷が見える。
「こんなところに通じていたのね……」
「アリシアのお父様はどこですの!?」
「多分こっちですー!」
フェリスたちは森を駆ける。
いつしか日は傾き、世界には夕暮れの気配が忍び寄ってきていた。
黒々とした影を落とす木々に身をすくめ、フェリスは懸命に魔力の痕跡をたどる。地面には太い木の根が縦横無尽に張り巡らされ、あちこちに気味の悪いキノコが群れを成していた。
やがて、遠くに大きな建物が見えてくる。
荒削りな岩を無造作に組み合わせて造られたような、無骨な建造物。だがその高さは周囲の大樹より高く、一種壮麗なほどの偉容を顕していた。
「…………っ!!」
五感を研ぎ澄ませていたフェリスは、喉から悲鳴を漏らす。
「どうしたんですの、フェリス!?」
「ち、血の……においが……」
「血のにおいなんて、しませんけれど……」
ジャネットは首を傾げる。
「き、気のせいでしょうか……なんか、凄いにおいがして……いっぱい、叫び声みたいなのも聞こえて……あ、でも、耳に聞こえるわけじゃないんですけど……うぅぅ」
フェリスは自分の体を抱き締めてうずくまる。
そんなフェリスをアリシアが抱きすくめ、気遣わしげな視線を注ぐ。
「……多分、この場所に残された思念みたいなものじゃないのかしら。あまり見ない方がいいと思うわ」
「でも、アリシアさんのお父さんを見つけないと……」
「この建物の中ですかしら」
「は、はい。魔力は中に続いてます!」
「裏口を探した方がいいわね。きっと探求者たちがいるはずだし」
「応援を……呼んでいる暇はありませんわね」
「またお引っ越しされちゃったら大変です!」
フェリスたちが中の様子を窺いながら、建物に近づいていると。
風を切る音と共に、斧がフェリスの耳元を通り過ぎた。
斧は背後の樹に突き刺さり、幹を真っ二つにする。
「ふ、ふえ……」
フェリスは小さな体を凍りつかせ、じわりと涙ぐんだ。
建物から、斧の持ち主が、ガデル族の長バルフが、悠然と現れ出る。
「……誰かと思えば、ガキ共か。こんなところに来なければ、死なずに済んだものを」
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