追跡
それぞれの小部屋には、敷居のところに結界の魔法陣が描かれている。結界は消えているし、柵などは見当たらないが、これは。
「牢屋……かしら」
「ロバートさんはどこでしょう!?」
「大急ぎで確保ですわーっ!」
少女たちは独房を見て回るが、既に囚人の姿はない。
アリシアは肩を落とした。
「もう……引っ越してしまった後みたいね。私たちに場所が知られたから……」
「す、すみません……。わたしがあのとき逃げたせいで!」
「フェリスは悪くありませんわ。ミランダ隊長が怪我していましたし、離脱したのは正解ですわ」
しょげるフェリスをジャネットが慰める。
なにか手がかりはないかと周囲を調べていたアリシアは、独房の一室に目を留めた。落ちていた魔導具を拾い上げる。
「これ……お父様の腕輪だわ」
「ロバートさんのですか!?」
「ええ。結婚前にお母様からプレゼントされた腕輪だって嬉しそうに話していたから、覚えているの。お父様がここに捕まっていたのは確かみたいね」
アリシアは部屋を観察する。
岩が剥き出しの壁。寝床もなにもない、ごつごつした床。壁には黒い染みができていて、人の手形のようなものまで残されている。見ているだけでぞっとする。
「でも、足跡とかは残っていませんし、どこに連れ去られたかは分かりませんわよね……」
「ええ……メモでもあればいいのだけど……ないみたいね」
ジャネットとアリシアは途方に暮れる。
と、フェリスが床にぺたんと四つん這いになり、くんくん嗅ぎ始めた。
「フェリス!? なにしてるんですの!? 犬になっちゃったんですの!?」
驚くジャネット。
「ち、違います! そうじゃなくて、ロバートさんの魔力なら覚えてるので、ちょこっとでも残ってないかなって思って!」
「……あるかしら?」
「ありましたっ!」
「さすがはフェリスですわ!」
フェリスの突き上げる手を、ジャネットは思わず握り締めてしまい、自分の大胆な行動に赤くなる。
「でも、後少しで消えちゃいそうな感じで……早く追いかけなきゃなんですけどっ、でも、ミランダ隊長に言わないと……」
「今は仕方ありませんわ! まずは手がかりをたどるのが最優先ですもの!」
「そうね。魔術師団と一緒に行動していたら、また手遅れになるかもしれないわ。申し訳ないけど……書き置きだけ残しておきましょう」
「は、はい!」
フェリスは魔力の痕跡を追いかけ始め、アリシアとジャネットが並走する。
地下の洞窟は、ますます深く、地獄の底まで続いているかのように見えた。
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