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剣聖の弟子  作者: 二階堂風都
第八章 獣人国再興
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王都ルマニの現状

「突然だが、王都に戻ることになった」


 ライオルさんが兵士達を集めて話を始める。

 突然の宣言に戸惑いを見せる兵達だったが……。


「隠してもいずれ知ることになるだろうから言っておく。アリト砦が落ちた」


 続く言葉にざわめきが大きくなった。

 互いに顔を見合わせる。

 皆、動揺を隠せない。


「四国会議の開催前にここを奪還しない事には、俺は安心して国を離れられん。ベヒーモスの肉をこれ以上確保出来ないのは惜しいが……そんなことを言っていられる状況でも無くなった」


 それを見たライオルさんがごく簡単な状況確認を行う。

 言わなくとも分かる様なことではあったが、それを聞いた兵士達の動揺はやや収まった。

 間を取る意味もあったのだろう。

 話が続く。


「国境地帯は不安定になっちまったが、それは王都に戻ってからまた考えれば良い。肉の配給による効果は上々らしいから、俺達は誇っていい仕事をした。お前ら、よくやった!」


 その言葉で兵達の表情に明るさが見え始める。

 人間は鞭で叩かれてばかりでは動かない、ということなのだろう。

 褒められれば誰だって嬉しいものだ。


「戻る前に一杯やることを許す。それが終わったら出発だ」


 帰路につく前に、飲酒の許可が降りる。

 兵士達が動き出し、普段よりも少し豪華な朝食が用意された。

 いつものメニューにワインとチーズが追加される。

 量こそ制限されているが、それでも兵士達は嬉しそうだ。

 ライオルさんの計らいで暗い空気を作ることなく出発できる運びとなった。




 帰路の行軍は割合円滑に進んだ。

 ベヒーモスの肉の効果によって、来た時よりも元気な者も居るくらいだ。

 私の周りには例の三人組の兵士達。

 二日目以降、すっかり懐かれてしまったのか彼等が近くに居ることが多い。

 

「おじょー、疲れてませんか?」


 熊獣人のリクさんが満杯に水が入った水筒を差し出してくる。

 二日目の洞窟で最も恐がっていたのはこの人。

 怪力自慢らしいのだが、気が小さいのか優しいのかいつも逃げ腰だ。

 体が大きさの割につぶらな瞳をしている。

 折角なので水を一口飲んで、水筒を返して礼を言う。


「お嬢、お荷物をお持ちしましょう」


 同じく、腰を抜かしていた鮫獣人のカイさん。

 匂いに敏感なのかいつも鼻をひくつかせている。

 痩せぎすの体に鋭い目で結構迫力がある。

 ただし黙っていれば、だが。


「リク、その水筒寄越しなさい! 今すぐに!」


 最後に三人組の紅一点、鷲獣人のクーさん。

 大きく優美な翼が背にあり、飛行能力が高そうだ。

 黒髪で毛先が茶、黄色に近い目で整った顔立ちなのだが私を見る目が恐い。

 そして話す時の距離も近い。

 名前も特徴も覚えやすいトリオで、ライオルさんによるとかなり優秀な兵士達らしいが……本当か?


(お兄ちゃん、あとどのくらい?)


(日暮れまでには着くんじゃないかな。来る時は二日掛かったけど)


 実際に行軍速度はかなり速い。

 一度通った道であること、往路で草などを刈って道を整備したこと、輸送隊が何度も通ったことなどが重なり効率が何倍も良い。


(じゃあ、着くまで寝ててもいい?)


(いいよ。着いたら起こすから)


(はーい、おやすみー……)


 そう言えば四国会議の開催日には確実に間に合わないのだが、どうするのだろう?

 砦が落ちた以上、ライオルさんは自ら奪還に行くのだろうけれど……。

 そういう人なのは分かっているので、それ自体は構わない。

 既に連絡の文くらいは送られているのだろうか? 戻ったらルイーズさん……いや、ミディールさんか。

 ミディールさんにその辺りの事情を聞いてみよう。


「っしゃー! とったどー!」


 大声に目を向けると、水筒をリクさんから奪い取ったクーさんが飲み口を舐め回していた。

 恐い。




 王都ルマニはそこかしこから煙が出ていた。

 といっても、あの夜の様な火事ではなく、煮炊きをする煙である。

 時刻は夕方、各所で夕食の準備なりを行っているのだろう。

 私は現在、一般層の住宅地を一人で歩いていた。


(アカネ、着いたよ。起きて)


(うーん…………あれ、着いたの? 他のみんなは?)


(みんな一旦城に行ったんだけど、ライオルさんが街の様子を見てきてくれってさ。だから私だけ別行動)


 城の復旧は応急処置は終わったらしく、今日からはそちらに泊まっていいとのことだ。

 いつまでも孤児院にお世話になるのは悪いので、私もそちらに移ることにした。

 後で挨拶に行かないと……。


(お兄ちゃん、何だか街の様子が前と違うね?)


 そう、そうなのだ。

 特にアカネを起こす前に見たスラム街だが……劇的に浮浪者が減っている。

 しかも幾つかのボロ家は取り壊しが始まり、区画によってはスッキリとした更地になっているのだ。

 そして今居る一般住宅地帯は、なんと屋台の飲み屋や歩き売りの商人達が出現した。

 以前には一切見られなかった光景だ。

 ガルシアの活気には遠く及ばないが、街の人間達の表情は明るい。


(ルイーズさん達、文官が早くも成果を出しつつあるみたいだ。富裕層の人達の移動は止められなかったみたいだけど)


 富裕層の住宅地は、さながらゴーストタウンのような有り様だった。

 スラム街の者達が勝手に住みつかないように空き家を兵士達が見張っていたが……。

 いずれ一般層から成り上がった商人や市民に買われるか、一般層の地域に飲み込まれるてただの土地になってしまうのだろう。


(主に中間層がグッと活気付いた形に見えるね。富裕層は去って、貧困層を救済しつつ取り込んでいる。そんな感じかな)


(わたし、絶対前より今の雰囲気の方が好きだよ! お兄ちゃん、折角だから何か買っていこうよ!)


 王都を取り巻いていた閉塞感は抜け、市民達が前を向き始めた。

 私達が不在だった短期間にしては大きな変化が、ルマニで起こっている。

 私は川魚の塩焼きを屋台で購入して齧りついた。

 相変わらず濃いめの味付けだったが、今は不思議と悪くない気分だった。

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