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剣聖の弟子  作者: 二階堂風都
第七章 獣人の国
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帝国の影

 捕らえた盗賊達の尋問はライオルさんとミディールさんに任せ、私はミナーシャに話を聞くことにした。

 全員人目につかないように街道から少し逸れた林の中に移動している。

 助けられた彼女は泣きながら抱き着いてきた。


「ううう、ありがとニャー! あれ、お姉さんどこかで会ったことある?」


 不思議そうな顔でこちらを見るミナーシャに、私は構わず質問をぶつけた。


「で、どうして獣人国に居るんですか? ミナーシャさんは」


 ようやくハッとした表情になるミナーシャに、こちらは微妙な心持ちだ。


「ニャニャ!? 魔法剣のカティア! あれ、でも何で耳……牛獣人の格好がぴったり過ぎて良く似た別人かと――」


「わ、私の事は良いんですよ! ちゃんと質問に答えて下さい」


「何でも何も、ただの里帰りだけど? 貰った賞金で景気よく騒いでたらギザルで目を付けられちゃって……」


 彼女の出身は獣人国らしい。

 里帰りなのは分かった。

 ……ただ、襲われた理由に関しては余りにも間抜けじゃなかろうか。

 それでは自分からお金を持っていると喧伝けんでんして歩いているようなものだ。

 ちなみに貨幣は各国で発行しているが、金、銀、銅貨はサイズや金属の混合比率を統一してどの国でも価値が等しくなるようにしているらしい。

 よって四国間ではどの国の金でも同じ様に使用できる取り決めがされているのだとか。

 ミディールさんが宿で払ったのもガルシアの通貨だが、特に何も言われなかったのがその証拠である。

 闘武会の賞金に関しては、予選さえ通過すれば少なくない額の賞金が出たと聞いている。

 二回戦敗退のミナーシャにもそれなりの賞金が支払われた筈だ。

 余談だが私の優勝賞金の使い道は保留で、まだ国に預けたままだ。


「それにしてもどうして一人なんですか? 闘武会の観客席に居た、取り巻きの人達は何処に?」


 かなり熱心に応援していたし、何人か一緒に来てもよさそうなものだが。

 私の問いにミナーシャが答える。


「キシス領に帰ったよ? だって、みんな領の仲間達だもん。獣人じゃない人も一杯だし、獣人でも一度もガルシアから出た事ない子も居るし……一人で行くって言ったらすっごく心配されたケド」


「心配的中させてどうするんですか。ちゃんと自重して下さいよ、心配してくれる人が沢山居るんなら尚更」


「うう、面目ニャい……」


(お兄ちゃん、この人……)


(うん、大分危なっかしいね……どうしようか)


 項垂うなだれるミナーシャを見て溜息を一つ。

 このまま放っておくのもなあ……。


「ミナーシャさん、行先は何処なんです?」


「ニャ?」


「貴女の故郷ですよ」


「何処って……王都のルマニだよ。そこの孤児院が私の家なんだ」


 孤児院出身か。

 彼女の明るい性格を考えると少し意外だが。


「もし嫌でなければ、一緒に行きましょうか? 私達も王都に行きますし」


「え、ホント? やった、称号持ち二人と一緒なんて要塞担いで移動してるようなもんニャ! 今回みたいな目に合うのはもう勘弁だし、是非お願いするニャー!」


 調子いいなあ、二回戦ではあんなに人の事を馬鹿にしておいて。

 それでも何処か憎めない気がするのは才能かもしれない。


「では、御二人にも了解を得ますか」


 ライオルさんとミディールさんに事情を話すと、二通りの反応が返って来る。


「確かに放っておくのも寝覚めがわりいな。俺は構わんぜ」


「我々の正体を触れ回られたら面倒です。監視下に置いた上で、折角なので兵士として働いて貰うことにしましょう。勿論、無事に帰れたら給金は出します」


 心情面からと実務面からという事で、くっきりと判断基準が分かれた。

 結論は一緒だが性格が出ていて面白い。


「んじゃ、暫くの間よろしくお願いしますニャ!」


 そんな経緯で、偶然にも同行者が増えることになった。




 その後、ミディールさんとライオルさんが盗賊達から聞いた情報を整理して私達に話してくれる。

 予想通り彼らは、村の困窮の余り盗賊になったという話だ。

 村では金銭も食料も尽き、何人か餓死者すら出ている有り様だという。

 近隣の村に助けを求めても、領主に助けを求めても、どちらも芳しい反応は無かったようだ。

 こうして見捨てられる村もこの国では多いとか。

 ガルシア王国では考えられない事態だが、残念ながら事実らしい。

 そうして今日、初めて盗賊行為に及んだらしいが結果は見ての通り失敗だった。

 肝心の困窮の理由も近隣の狩場での魔物の凶暴化と農作物の不作などが原因らしいが、ここまではいい。

 ただ幾つか私達にとって見過ごせない情報があった。


「傷付いた魔物から黒い霧が……?」


「ええ。覚えがあるでしょう? カティア殿。決勝の動く鎧、それから――」


「バアルの眷属、だな。あいつらも傷口から黒い霧を出していた」


 ミディールさんの言葉の続きをライオルさんが引き取る。

 これだけ条件が一致していて、帝国の関与を疑わないほど呑気な人間はここには居ない。

 一体、その村で何が起きているのか――


「ねーねー何の話? 私にも分かるように話して欲しいニャ」


 訂正。

 ミナーシャは二回戦の私の峰打ちで暫く寝込んでいたらしく、決勝は見ていなかったらしい。

 どうやら状況を飲み込めていない模様。


「ミナーシャさん、後で説明しますから……」


 私が宥めると、渋々といった様子で口をつぐんだ。

 ミディールさんが一つ咳払いをして仕切り直す。


「そこで、村への案内と調査の協力を条件に全員を解き放つつもりですが……カティア殿、何か異論はありますか?」


 私個人としては彼らの盗賊行為に関して肯定するつもりもないが、かといって現地の法が絶対だという気も更々ない。

 汲むべき事情もある訳だし、ミディールさんとライオルさんの判断で問題ないと思う。

 ただし、食料に関しては事情を聞いておいて見捨てるのは忍びない。


「ありません。しかし一点だけ、彼らの当面の食料を――」


「用意致しますよ、実利も伴うことですし。盗賊行為に関しては我々が黙っていれば誰にも分かりませんし、これから得られる情報に比べれば全て些事です。よろしいですか? ミナーシャ殿」


 不意にミディールさんがミナーシャに向けて釘を刺す。

 予想通りにミナーシャは不満そうな顔をした。


「えー、でも私あんなに追い回されて」


「よろしいですね?」


 ミディールさんがミナーシャに詰め寄る。

 真顔で。


「あ、その」


「よろしいですよね?」


 じりじりと詰め寄り追撃を掛けるミディールさんに、ミナーシャが視線を逸らす。

 その額には妙な汗が浮かんでいた。


「は、はいですニャ……」


「お前それ脅迫じゃね? 同意しなかったらどうする気だよ」


 ライオルさんが呆れたように口を挟んだ。

 ミディールさんはさも当然のような口調で一言。


「無論、永遠に口が利けなくなるよう――」


「ニャーーー! カティア、この人恐いニャ!」


 耐え切れなくなったミナーシャが私の背に隠れた。

 私を盾にするようにべったりと張り付く。


「……冗談です。ですが、余計な発言は慎むように。貴女は口が軽そうだ」


 背中でブルブルと震えるのを感じる。

 その顔を覗き込むと完全に涙目だった。

 大丈夫だろうか、このメンバー……。

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